まいは、小さいころからおばあちゃんが大好きだった。
実際、「おばあちゃん、大好き」と、事あるごとに連発した。
そういうとき、おばあちゃんはいつも微笑んで、
「アイ・ノウ」
知っていますよ、と応えるのだった。
(新潮社「 西の魔女が死んだ」13ページより)
こんにちは。どうも今年の春は訪れが早いですね。というか、真冬ありましたっけ。
まあ、何はともあれ3月。早春。別れと出会いの季節ですね。今回から複数回に分けて、春にぴったりな別れ・出会いの小説を紹介していきたいと思います。
ところで、一口に「別れ・出会い」と言っても様々な相手とのそれがあると思います。
- 家族との別れ⇒「春におすすめ 別れの小説①家族編」
- 恋人との別れ⇒「春におすすめ 別れの小説②恋愛編」
- 先生との別れ⇒「春におすすめ 別れの小説③教師編」
- 友人との出会い⇒「春におすすめ 出会いの小説①友情編」
- ライバルとの出会い⇒「春におすすめ 出会いの小説編②ライバル編」
こんな感じで記事をアップしていきたいと考えています。
それでは早速、「春におすすめ 別れの小説①家族編」と題して本日ご紹介するのは、梨木香歩さんの「 西の魔女が死んだ」です。
初版は約25年も前の作品ですが、3年前に愛蔵版が刊行されるほどの名作です。愛蔵版には25年の時を経てスピンオフ作品が3作収録されているとの事で、ブログ主は迷うことなく愛蔵版買ってしまいました。
紹介に入る前にちょっとだけ自分語りをば。おそらく多くの方が「別れの小説」で気になるのは「②恋愛編」ではないかと思います。しかし敢えてこの「 西の魔女が死んだ」をトップバッターに持ってきたのには個人的な理由があります。そのエピソードは最後の「余談ですが・・・」で紹介しようと思います。(まあ、本当に単なる自分語りなんですが。よかったらお付き合いください。)
目次
- 「 西の魔女が死んだ」キーワード
- 登場人物紹介
- あらすじ
- 味わいポイント
- 余談ですが・・・
ブログ主の祖母
「 西の魔女が死んだ」キーワード
魂と身体
野いちご 庭 畑 鶏
銀龍草 登校拒否
ヒメワスレナグサ 感受性 生き難さ 魔女
おばあちゃん
登場人物紹介
まい・・・中学3年生。2年前、中学校に上がったばかりの頃に学校に行けなくなり、1か月間おばあちゃんと暮らす。
おばあちゃん・・・まいの母方の祖母。イギリス人。まいに「魔女になるための修行」を教える。
ゲンジさん・・・おばあちゃんの家のご近所さん。初対面のまいに「ええ身分じゃな」と言い放つ。
あらすじ
「魔女が倒れた。もうだめみたい」
授業中だったまいをママが迎えに来た。二人だけの時、まいとママはおばあちゃんの事を「西の魔女」と呼ぶ。そう呼ぶようになったきっかけは2年前。まいはおばあちゃんの家へ急ぐ車の中で2年前のあの日々を思い出す・・・。
2年前、小学校を卒業して中学校に入ったばかりの5月。まいは学校に行かなくなった。
まいはしばらくの間、おばあちゃんの家で暮らすことになる。
まいはおばあちゃんが大好きだった。事あるごとに「おばあちゃん大好き」と言い、そんな時おばあちゃんはいつも「アイ・ノウ(知っていますよ)」と返してくれるのだった。
おばあちゃんと野いちごを摘み、ジャムを作った初日の夜。「まいは、魔女って知っていますか」とおばあちゃんがまいに訊ねた。「魔女に大切なのは意志の力。自分で決める力、自分で決めたことをやり遂げる力です」 まいはおばあちゃんのもとで「魔女修行」をすることに決めるー。
味わいポイント
①感受性と生き難さ
「魔女」?あの黒い服を着てとんがり帽子を被ってほうきで空を飛ぶ?そう思われる方も多いかもしれませんが、本作における「魔女」はちょっと違う存在です。
新学期早々、学校に行けなくなった中学生のまい。そんなまいを受け入れたのが「西の魔女」ことおばあちゃん。おばあちゃんがまいに語った「魔女」という存在とは・・・
「精神力って、根性みたいなもの?」
「おばあちゃんの言う精神力っていうのは、正しい方向をきちんとキャッチするアンテナをしっかりと立てて、身体と心がそれをしっかり受け止めるっていう感じですね」
(56ページより)
「よく訓練された魔女にはそういうことはありません。見たいと思うものが見えるし、聴きたいと思うことが聞こえる。物事の流れに沿った正しい願いが光となって実現していく。それは素晴らしい力です」
(81ページより)
「でも、気をつけなさい。いちばん大事なことは自分で見ようとしたり、聞こうとする意志の力ですよ。自分で見ようともしないのに何かが見えたり、聞こえたりするのはとても危険ですし、不快なことですし、一流の魔女にはあるまじきことです」
(81ページより)
「いいですか。これは魔女修行のいちばん大事なレッスンの一つです。魔女は自分の直感を大事にしなければなりません。でも、その直感に取りつかれてはなりません。そうなると、それはもう、激しい思い込み、妄想となって、その人自身を支配してしまうのです。」
「あまり上等ではなかった多くの魔女たちは、そうやって自分自身の創りだした妄想に取りつかれて自滅していきましたよ」
(117~118ページより)
以上はおばあちゃんがまいに語った「魔女」という存在の一部抜粋です。
ブログ主的には「魔女」とは「感受性がとても高い人」を指している気がします。女性に限らず感受性が豊か・高い人のことを「魔女」としているのではないでしょうか。
感受性が高く、様々な事物・事象・他人からキャッチする情報量が多い人たち。キャッチする量が多いが故に正しい方向性さえ掴めばそれは大きな原動力となる。
しかし、一方で自分の意思とは関係無いものが見えたり聞こえたりする。つまり、キャッチする情報量が多いが故に振り回されて妄想に取り憑かれる危険性も孕んでいる。
そう言ってまいの頭をなでながら、
「感性の豊かな私の自慢の孫」
と、独り言のように呟いたので、まいは大いに照れてしまった。
(41ページより)
魔女とは、そんな諸刃の剣な存在である。おばあちゃんはまいの感受性の高さを誇りに思うと同時に、その生き難さを理解してもいるのです。
②全てを包む大きな愛情
そんな生き難さを抱えるまいですが、おばあちゃんと暮らし、おばあちゃんの愛情の中でその感受性を大いに発揮します。
初夏の山での野いちご摘み、毎朝の卵採り、季節ごとの草木の手入れ、石鹸と太陽をふんだんに使ったシーツの洗濯・・・。まいは、おばあちゃんのもとでみずみすしい感性を取り戻していきます。それと同時に、
「いちばん大切なのは、意志の力。自分で決める力、自分で決めたことをやり遂げる力です」(59ページより)
まいはおばあちゃんの「魔女になるためのトレーニング」に従い、自分で1日の行動スケジュールを考え、着実に実行していく“意志の強さ”を身に着けていきます。
しかし、ある事件がきっかけで、まいが魔女の持つ危うい一面に陥りかけると、まいとおばあちゃんの間がそれまでとは少し変わってしまいます。そしてどこかぎくしゃくとした関係のまま、まいはおばあちゃんと別れて現実社会に戻る道を選びます。本当はいつものように「おばあちゃん、大好き」と伝えたい気持ちを飲み込んで。
そして2年後。そんな風に別れて以来、一度も会うこと無く舞い込んだおばあちゃんの訃報。最期に西の魔女が見せたのは、これまでで一番大きなまいへの“愛情”でした。それは是非本編ラストでご確認ください。
ラストのヒントになるような二人のやり取りを抜粋してみました。
「じゃあ、こうやって、考えたり、うれしかったり悲しかったりするわたしの意識はどうなるの。わたしはそれが消えてなくなるのがいちばん怖いの」
(99ページより)
「おばあちゃんは、人には魂っていうものがあると思っています。身体は生まれてから死ぬまでのお付き合いですけれど、魂のほうはもっと長い旅を続けなければなりません。」
「じゃあ、魂がわたしなの?」
「まいは魂と身体が合体して、まい自身なんですよ」
(98ページより)
「それじゃあ、身体を持っていることって、あんまりいいことないみたい。何だか、苦しむために身体ってあるみたい」
「魂は身体をもつことによってしか物事を体験できないし、体験によってしか、魂は成長できないんですよ。ですから、この世に生を受けるっていうのは魂にとっては願ってもないビッグチャンスというわけです」
(100ページより)
「それに、身体があると楽しいこともいっぱいあります。まいはこのラベンダーと陽の光の匂いのするシーツにくるまったとき、幸せだとは思いませんか?寒い冬のさなかの日だまりでひなたぼっこしたり、暑い夏に木陰で涼しい風を感じるときに幸せだと思いませんか?鉄棒で逆上がりができたとき、自分の身体が思うように動かせた喜びを感じませんでしたか?」
(101ページより)
「おばあちゃんが死んだら、まいに知らせてあげますよ」
「まいを怖がらせない方法を選んで、本当に魂が身体から離れましたよって、証拠を見せるだけにしましょうね」 (105ページより)
余談ですが・・・
ブログ主の祖母
ブログ主の祖母は既に二人とも他界していますが、母方の祖母が亡くなったのがちょうどこれから迎える季節、春でした。
素朴で豪胆な人でした。所謂ぴんぴんころり、というやつでした。訃報を聞いたとき自分は大学生でした。高校生の妹を迎えに行く車中で不意に思い出したのが、この「 西の魔女が死んだ」でした。中学生の頃初めて読んだ時に「いつか自分も大好きな祖母と別れる日が来るんだ。」と考えた事を思い出し、「ああ、その時が来たんだ。」と思いました。その瞬間、この作品を通して今の自分が過去の自分を見ている様な、過去の自分が未来の自分を見ている様な、中学生の頃の自分と今の自分とが相対している様な不思議な感覚に陥ったのを今でも覚えています。
祖母は満開の桜の中で旅立っていきました。素朴で豪胆な祖母に最もふさわしい季節だったと、当時も今もそう思っています。
今でも春のはじめ、桜が咲く頃に真っ先に思い出す人物は祖母です。「春におすすめ 別れの小説」のトップバッターに「 西の魔女が死んだ」を据えたのはそんなわけでした。
次回は「春におすすめ別れの小説②恋愛編」と題して、幸田文の「濃紺」をご紹介しようと思います。
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本の虫な子だったけど読書感想文は死ぬほど苦手だった。まさに苦痛でしかなかった。のに、今では本の感想(=ブログ)書くのが死ぬほど好きっていう(ーー;) https://t.co/NUN8Bur6RQ
— josiemarch (@josiemarch2) 2020年2月19日
↓「西の魔女が死んだ」のような人生賛歌をお探しでしたら、こちらの小説・映画もいかがですか?
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