小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

小説-気分で選ぶ

春におすすめ別れの小説③教師編「一房の葡萄」有島武郎・著

それにしてもぼくの大すきなあのいい先生はどこに行かれたでしょう。もう二度とは会えないと知りながら、ぼくは今でもあの先生がいたらなあと思います。秋になるといつでも葡萄の房はむらさきに色付いて美しく粉をふきますけれど、それを受けた大理石のよう…

春におすすめ別れの小説②恋愛編「濃紺」幸田文・著

「ぜひこの一足をあなたにはいてもらいたい、そう思って仕上げた。しかし、主人が上物は扱わせてくれないので、自費の材料ゆえ粗末で恥ずかしい。かなりなくせのある木目で、今日のあれとは比べものにならない。気をわるくされやしないかと心配だが、くせが…

春におすすめ別れの小説①家族編 「西の魔女が死んだ」梨木香歩・著

まいは、小さいころからおばあちゃんが大好きだった。 実際、「おばあちゃん、大好き」と、事あるごとに連発した。 そういうとき、おばあちゃんはいつも微笑んで、 「アイ・ノウ」 知っていますよ、と応えるのだった。 (新潮社「 西の魔女が死んだ」13ペ…

弾いたメダルチョコの出る目は表か裏か「銃とチョコレート」乙一・著

「カードをうらがえして確認したまえ」 彼が言った。 カードのうらには、風車小屋の絵が小さくえがかれている。 ぼくは目のまえの人を見あげた。 名探偵ロイズ。彼とのであいは、そのようにおこった。 ( 講談社文庫「銃とチョコレート」乙一・著 63ページ…

ロシア革命・亡命・戦争・法廷闘争・・・。『バレンタインにはチョコレートを』の元祖モロゾフの波乱万丈な伝記2篇

チョコレートを食べなくても、栄養に欠けるわけではない。死ぬわけでもない。それでも口にするのはおいしいからにほかならない。音楽や書物に心遊ばせたり、一杯の紅茶に気持ちをなごませるように、ひとは愉しみをもとめてチョコレート菓子を舌にのせるのだ…

節分におすすめな鬼の本 ノワール(黒)編

一塊の鬼火が崇徳院の膝元から燃え上って、山も谷も真昼のように明るくなった。その光の中で、よくよく院のご様子を拝見すると、お顔は朱を注いだように赤く、雑草の様な髪は乱れて膝までかかり、白眼をつり上げて、熱い息を荒々しく吐き出すご様子がいかに…

節分におすすめな鬼の本 ブラン(白)編

まめまきの おとを ききながら、おにたは おもいました。 (にんげんって おかしいな。 おには わるいって、きめているんだから。 おににも、 いろいろ あるのにな。 にんげんも、 いろいろ いるみたいに) ( ポプラ社「おにたのぼうし」あまんきみこ・著 …

聖夜に森を彷徨う可憐な兄妹の運命は・・・。「水晶」 アーダルベルト・シュティフター 著

ほら穴の内側は、一面に青かった。この世のどこにもないほどに。それは青空よりもはるかにふかく、はるかに美しい青さであった。いわば紺青の空色に染めたガラスを透してそとの光がさしこんでくるような青さであった。( 岩波文庫「水晶」シュティフター・著…

間諜(スパイ)VS 防諜(スパイ殺し)「十二月八日の幻影」 直原冬明・著

「当然です。諜者は功を語らず。諜報員の作戦が白日の下に晒されるのは、正体がばれたときです。それは、作戦が失敗したことを意味します。成功した作戦は歴史の闇のなかへと消えていくだけです」(光文社「十二月八日の幻影」直原冬明・著 42頁より) ど…

児童書と侮るなかれ 格調高い英国ゴシックホラー「モンタギューおじさんの怖い話」クリス・プリーストリー著

なぜか、おじさんの家へ行くときに、森の木々が葉をつけていた記憶がない。あの森をぬけていくときは、いつも寒くて、霜がおりているか、雪がふっていたような気がする。葉といえば、地面の上でくさりかけている枯れ葉以外、見たおぼえがないのだ。( 理論社…

海鳴りと松風、月さやかな夜道、三味線弾きの女姿・・・。「母を恋うる記」谷崎潤一郎・著

母の懐には甘い乳房の匂が暖かく籠っていた。 ・・・・・・・・・ が、依然として月の光と波の音とが身に沁み渡る。新内の流しが聞こえる。二人の頬には未だに涙が止めどなく流れている。 私はふと眼を覚ました。 ( 新潮文庫「刺青・秘密」谷崎潤一郎 著 2…

ちょっと現実逃避したい大人におすすめの喜劇 「かもめ食堂」 群ようこ・著

フィンランドのかもめはどことなく、のびのびとふてぶてしく、また ひょっこりしていた。 このひょっこり具合が、自分と似ているような気がしてきた。 「かもめ・・・・・・、 かもめ食堂・・・・・・、 でいきますか」 ( 幻冬舎文庫「 かもめ食堂」群よう…

甘さゼロ?のスウィーツ×学園ミステリ第2弾「夏期限定トロピカルパフェ事件」米澤穂信・著

「<ティンカー・リンカー>のピーチパイ!白桃を使ってて、とってもとってもおいしいの!」 そしてそのまま、小佐内さんの笑顔は凍りつく。 蒸し暑い夏の日、この瞬間ぼくと小佐内さんの間にしんと冷えた空気が下りてきたのを、ぼくは確かに感じていた。 (…

透き通るほど美しく哀しい不朽の名作 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治・著

するとどこかで、ふしぎな声が、 銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、 ぱっと明るくなって、 まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、 そら中に沈めたという工合 ( 新潮文庫「新編銀河鉄道の夜」宮沢賢治・…

今夏は王道の和テイスト恐怖小説はいかが?「営繕かるかや怪異譚」小野不由美・著

俯いた女は折り目正しく頭を下げた。帯締めに下げた鈴がチリンと鳴った。 「お悔やみを申し上げます」 女ははっきりとそう言った。 ( 角川書店「営繕かるかや怪異譚」小野不由美・著 108頁より) ブログ主の住む関東は、なかなか梅雨が明けない日々です…

ミステリーの女王自薦の、それはそれは恐ろしいサスペンス 「終わりなき夜に生れつく」アガサ・クリスティー著

「そういうときこそ気をつけないと」フィルポットは言った。 「いわゆる死の予兆(フェイ)というやつですよ。」 (ハヤカワ文庫「終わりなき夜に生れつく」アガサ・クリスティー著 239頁より) 読み終えた時の第一声、「なんて恐ろしい小説だろう。」こ…

春の宵に、一瞬にして永遠なる恋のお話しはいかが? 「愛の手紙」ジャック・フィニイ 著

「信じてください。ぼくは、きみがこれを読む八十年もあとの時代に実在し、生きているのですー。きみと恋に落ちたことを、心の底から信じながら。」 (ハヤカワ文庫「ゲイルズバーグの春を愛す」ジャック・フィニイ 著 207頁より) 春本番になって、寒の戻り…

甘さゼロ?のスウィーツ×学園ミステリ「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信 著

「わたし、スタンダードシフォンと、コーヒー」 まずはシフォンで肩慣らしか、と思ったが、 「・・・・・・とミルフィーユとパンナコッタとストロベリーショート」 いきなり全開ですか。 ( 創元推理文庫「 春期限定いちごタルト事件」米澤穂信 著 155頁より…

チョコレートは甘くほろ苦いだけ?小説「ショコラ」ジョアン・ハリス 著

「でも、人生は祝福するべきものだわ。そのすべてを。つまり、その最後さえも。」 わたしは、ホットプレートに載ったポットを手にとって、ふたつのグラスにホットチョコレートを注いだ。 ( 角川書店「ショコラ」ジョアン・ハリス著 231頁より) バレンタイ…

冬の港町。幻想的でノスタルジックな二少年の冒険譚を。「三日月少年漂流記」長野まゆみ 著

「寒くなったな、夜天(そら)が落ちてきそうだ。」 「夜天(そら)が、星ぢゃないのか。」銅貨が訊き返すと、 「夜天だよ。今にも留め金が外れて天井板のように落ちてきそうなほど凍ってる。」 ( 河出書房新社「三日月少年漂流記」長野まゆみ・著 74頁よ…

木枯らし1号が吹く頃になったら、じんわり沁み入る冬の絶品短編集を。「季節風*冬 サンタエクスプレス」 重松清 著

「もしもなっちゃんが「早く帰りたい」と言うのならせめて途中で『ひかり』に乗り換えよう、と携帯電話で時刻表を調べかけた、そのときー。 「ねえ、パパ・・・・・・ サンタさん」 なっちゃんが言った。 「はあ?」 「トナカイさんも、ホームにいるよ」 ( …

雪原のロシア辺境地で繰り広げられる一青年の冒険譚を。「大尉の娘」アレクサンドル・セルゲーエヴィチ・プーシキン著

「じゃ行って来い、ピョートル。いったん忠誠を誓ったら、その人に忠勤を励むんだぞ。上官の言うことをよく守れ。上官の機嫌をとるじゃないぞ。勤務の上で出しゃばるな、また勤務をずるけるな。それからこのことわざを覚えとけ -おろしたてから着物を惜しめ…

闇夜が長くなるハロウィーンから冬至にかけて稀代の名手によるゴシックホラー小説を。「幽霊」イーディス・ウォートン 著

夢を見ていたに違いないと思い始めましたが、壁に下がった呼び鈴を見ると、まだ揺れているではありませんか。 (作品社「幽霊」イーディス・ウォートン著 145頁より) ハロウィーンからクリスマスあたりの、夜が長くなる季節になると繰り返し読みたくなる…

秋に差し掛かったら文化祭の1日を切り取った学園ミステリ小説を。「文化祭オクロック」竹内真・著

「それでは皆さん、東天祭の始まりです!」生徒会長がそう宣言した瞬間に文化祭が開幕する。⋯八百人分のエネルギーが一気に解放され、どよめきや足音へ変わっていく。 ( 東京創元社文庫「文化祭オクロック」 竹内真・著 4頁) ご紹介する小説は、竹内真さん…

真夏の夜に和テイストの恐怖小説を。「きつねのはなし」森見登美彦・著

掌に覆われた顔が暗くなり、指の隙間から眼球がのぞいていた。私は驚いて彼の仕草を見つめた。「狐の面だよ」彼は言った。 (新潮社「きつねのはなし」森見登美彦・著30頁より) ご紹介する小説は、森見登美彦さんの「きつねのはなし」です。 目次 「きつ…

ジャズのスタンダードナンバー に彩られた瑞々しい小説を。「サマータイム」佐藤多佳子・著

ぼくの頭の中でふいにピアノの音が踊り出した。右手だけの力強いサマータイム! ( 偕成社「四季のピアニストたち[上]サマータイム」佐藤多佳子・著 70頁より) 紹介するのは佐藤多佳子さんの小説「 サマータイム」です。 目次 「 サマータイム」キーワー…

夏の始まりにレトロで幻想的な「現代版・雪渡り」を。「夏至祭」長野まゆみ・著

今夜は秘密を持つ夜にふさわしい月が出ている。まもなく北西の地平に沈むところだ。天蓋は群青に澄み、ゆっくりと回転しはじめた。 ( 河出書房新社「夏至祭」長野まゆみ・著 22頁より) ご紹介する小説は、長野まゆみさんの「 夏至祭」です。 目次 「 夏…

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