小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

春におすすめ別れの小説②恋愛編「濃紺」幸田文・著


「ぜひこの一足をあなたにはいてもらいたい、そう思って仕上げた。しかし、主人が上物は扱わせてくれないので、自費の材料ゆえ粗末で恥ずかしい。かなりなくせのある木目で、今日のあれとは比べものにならない。気をわるくされやしないかと心配だが、くせがあるだけに仕事には手間はかけた、それだけが価値だ」

講談社「台所のおと」幸田文・著 61ページより)

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こんにちは。繁忙期を乗り越え迎えた春の3連休に浮かれてるブログ主です。 

ここ最近、本当に死にかけてたので、今更ながら桜がチラホラ咲いてるのを見て

 ∑(゚Д゚) となってます。

やっと春を楽しめそうです。

 

という事で前回に引き続き『春におすすめの別れの小説 』です。第2弾として今回ご紹介するのは幸田露伴の娘、幸田文(1904年〜1990年)の『濃紺』です。彼女の短編集『台所のおと』に収録されてます。

 

 

目次

  • あらすじ
  • 登場人物紹介
  • 「濃紺」キーワード
  • 味わいポイント

  ①淡く静謐な相思相愛

  ②時の流れと執着

 

 

あらすじ

6年前に夫に先立たれたきよ。息子娘たちが心配するなか、手に和裁の職があるからと今現在まで一人住みを通している。そんなきよの楽しみは週に1度、やさしい嫁と二人の孫たちのもとへ遊びに行くこと。

ある日孫たちが、なぜ下駄店が看板に「下駄店」と書かず「お履き物店」と書くのかについてけんかをはじめる。その時、兄が妹に対して言い放った言葉が不意にきよの胸にしみる。

「いまはもう下駄をはくひとはいないもの」

その言葉を聞いたきよは大切に仕舞い込んでいる、濃紺の鼻緒の下駄を思い出す。もう三十年以上も前に、ある人物から送られたその下駄のことをー。

 

台所のおと (講談社文庫)

台所のおと (講談社文庫)

  • 作者:幸田 文
  • 発売日: 1995/08/02
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

登場人物紹介

きよ・・・夫を6年前に看取って以来、一人暮らし。若い頃から優れたお針子で、今でも和裁の職に恵まれている。休日に嫁と孫のもとに遊びに行くのが楽しみ。

 

青年・・・お針子時代のきよが通っていた下駄店の店員。きよにある下駄を贈る。

 

 

 

「濃紺」キーワード

嫁  孫   和裁の職  穏やかな老後

お針子  下駄  

下働きの青年  

くせ木  繁柾 

 歯つぎ 

えんじ  しそ紫  濃紺  30年 

 

 

味わいポイント

①淡く静謐な相思相愛

とても短い物語です。ブログ主が所蔵しているのは単行本版ですが、7ページしかありません。それにしても、きよと青年が直接言葉を交わす場面は2つしかありません。

 

一つが家族への中元に下駄を新調に来店したきよが、手の届かない高級品「繁正」の女物に心を奪われ思わず手に取った際に、青年が「気に入りましたか。」と声を掛ける場面。

もう一つが冒頭に引用した台詞。思いがけず青年がキヨを訪ねてきて、自作の「繁正」の下駄を贈って故郷へ帰る事になったことを告げる場面。

 

本当に2人が言葉を交わすのはこの2場面だけです。

この物語の神髄は言葉ではないのです。言葉ではなく、行動に隠された心だと思います。

ある日、そこにその青年がいた。どこの店でも中級品以下は、主人ではなく店員が扱う。その人は一度できよの好みをおぼえてくれ、二度目に言った時には、黙っていたのにはな緒の締めぐあいを、ぴたりにしてくれた。つまり一度で、なじみ並みのサーヴィスをしてくれた。

(60ページより)

 

はたち、二十一。きよの財布は相変わらず普段ばきしか買えず、その人も相変わらず下働きをつとめて控えめだった。

(60ページより)

きよに細やかなサーヴィスをしてくれる青年の心。そんな青年のいる店に通うきよの心。その「心」はおそらく、互いに相通づる淡い気持ちだったのではないでしょうか。しかし、互いにそれを表に出すことはなく、静謐な時間だけが流れます。

 

そして、最もこの物語の神髄が宿っている、「心」が宿っているのは、青年がきよに贈った下駄です。

なるほど、それは歯に当るあたりに、二段のくせがあった。おそらく根に近い、土ぎわの部分の材であり、そう木取るよりほかない材だったとしか思えぬ。はけばそう目立たないから、そそっかしい人は、なんと贅沢なのをはいているのかとほめる。そうなるとどうしても、一言そのあらを話さずにはいられないし、あらをあばけば下駄にもその人にもうしろめたい。へんな感じだった(62ページより)

 

いずれにもせよ、一番心にかかったのは、くせのある木のいとしさ、くせのある材に多分並ならぬ手間をかけたであろうその人の哀しさ、そしてまたくせを贈られた自分は、いったいどういう巡りあわせか、ということ。(62ページより)

「下駄」に込められた青年の心。淡い想いを寄せている女性に繁正の下駄を履いてほしい。その一心で、心を込めてくせのある材を下駄に仕上げていく青年。

 

「下駄」を受け取ったきよの心。自分に想いを寄せてくれているが故に、手間をかけてくせ材を下駄に仕立てて贈ってくれた、その気持ちたる下駄を愛しく思うきよ。

 

青年がきよに贈った繁正の下駄には、そんな二人の淡く静謐な想いが宿っています。

 

 

②時の流れと執着

ごく淡く静謐な想いだったかも知れませんが、長い時が流れてもその想いを忘れることは無かったきよ。

 

鼻緒の色が最初は娘らしいえんじ、二代目には少し落ち着いてしそ紫、そして今では深みのある濃紺。30年という時の流れの描き方が秀逸です。

 

鼻緒と同時に下駄自体も何度も歯つぎをしています。そして、今度履きへらせばもう削る余地がない。それ以来、きよはその下駄を履かずに仕舞い込んでいるのです。

 

それは取りも直さず、下駄ひいては青年へ未だ執着があるからでしょう。しかし、ラストできよは再び下駄を取り出します。そして、次の休みにはこれを履いて嫁の春子に由来を聞かせようと思いつき、それを楽しみにするところで幕を閉じます。

 

人生が「濃紺」に差し掛かってきたが故に、執着を受け入れながらもある意味執着を手放すような、サッパリとしたラストが爽やかです。

 

 

 

という事で『春におすすめ 別れの小説② 恋愛編』と題して、幸田文の『濃紺』をご紹介しました。

いかがでしたか。

 

次回は『春におすすめ 別れの小説③ 教師編』と題して有島武郎の『 一房の葡萄』をご紹介する予定です。

 

 

 

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