小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

今夏は王道の和テイスト恐怖小説はいかが?「営繕かるかや怪異譚」小野不由美・著

 

俯いた女は折り目正しく頭を下げた。帯締めに下げた鈴がチリンと鳴った。

「お悔やみを申し上げます」

女ははっきりとそう言った。

角川書店「営繕かるかや怪異譚」小野不由美・著 108頁より)

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ブログ主の住む関東は、なかなか梅雨が明けない日々ですが、皆様いかがお過ごしですか?

 

こんな小暗い☁梅雨寒の夏には、和風ホラー小説はどうでしょうか。

 

ブログ主の場合、森見登美彦さんの「きつねのはなし」紹介記事でも少しお話しましたが小暗かろうがカンカン照りだろうがお構いなしに、和風ホラー小説を読むのが夏の風物詩です。

  

今夏ご紹介する和風ホラー小説は、小野不由美さんの「営繕かるかや怪異譚」です。

  

 

 目次

  •  「営繕かるかや怪異譚」キーワード
  • あらすじ
  • 味わいポイント 

  ①THE王道ホラー

  ②救いのあるラスト

 

   

「営繕かるかや怪異譚」キーワード 

 

怪異 城下町 

古い日本家屋 襖 瓦 鈴の音 老人 井戸 ガレージ 旧態依然

営繕屋  救い

 

 

 

あらすじ

 

「奥庭より」「屋根裏に」「雨の鈴」「異形のひと」「潮満ちの井戸」「檻の外」の6編を収録。様々な成り行きで古屋を受け継いだ人々に降りかかる怪異を、営繕屋の尾端が解決していく短編集。

 

「奥庭より」

亡くなった叔母から古い日本家屋を受け継いだ祥子。すぐに気になったのは奥座敷。叔母は何故かこの奥座敷の前を箪笥で塞いでいた。しかも何度閉めても、いつの間にか箪笥の上にのぞく襖がわずかに開いていて・・・。

 

「屋根裏に」

妻と二人の幼子、そして母親と暮らす晃司。母親が「屋根裏に誰かいる」と言い始めて、とうとう認知症が始まったかと考え、年老いた母の為にも古い日本家屋をリフォームする事に。しかし、相変わらず誰かいるという母の訴えは変わらず・・・。

 

「雨の鈴」

祖母が残した古屋を継いだ、駆け出しのアクセサリー作家の有扶子(ゆうこ)。ある雨の日、チリンと澄んだ鈴の音に顔を上げると、石畳の路を黒い和服を着た女が歩いているが、女の足元を見ていた有扶子はある事に気づき・・・。

 

「異形のひと」

父親の仕事の都合で、急に都会から田舎の古い家へ越してきた中学生の真菜香。ある日、仏間に知らない老人がいるのを見つけ、思わず「誰よ?」と詰問する。母親に伝えても、近所同士が家に上り込むのが当たり前のこの辺りでは珍しいことではないため、相手にされず・・・。

 

「潮満ちの井戸」

結婚を機に祖母が遺した古屋に住みはじめた麻理子。夫の和志(かずし)は庭いじりが趣味になり、せっせと改良している。ある日、古井戸の近くにあった祠を取り去ってから、奇妙な事が起き始めて・・・。

 

「檻の外」

離婚して幼い娘と二人、故郷に戻った麻美(まみ)。しかし、旧態依然としたこの土地では、出戻りの麻美を親や親戚は冷遇し、親戚の古屋を当てがわれて追い出されてしまう。しかしその家のガレージでは、度々車が故障する。ある日、麻美は車のバックモニター越しに・・・。

 

 

営繕かるかや怪異譚

営繕かるかや怪異譚

 

 

 

 

 

味わいポイント

以前、紹介した「きつねのはなし」は京都が舞台でしたが、本作も旧城下町が舞台の和テイストなホラー小説です。まさに日本の夏に相応しい。

 

しかし、「きつねのはなし」淡麗ならば、この「営繕かるかや怪異譚」芳醇、といったところでしょうか(日本酒の様な表現ですが)。少しテイストが異なってきます。

 

 

①THE王道ホラー

 

「きつねのはなし」では、恐怖対象がはっきりとは描かれませんでした。キツネの面や謎のケモノに何か因縁がありそうですが、人の死や起こった怪異との間の因果関係は結局、模糊としたまま。ある意味無機質で人為を感じられない。というか、人間という存在を超えている。であるが故に一層恐ろしい、というやつです。

 

一方、この「営繕かるかや怪異譚」は、恐怖対象がはっきりと描かれます。まさに王道です。あまりここでは明記しないでおきますが、襖を開けて箪笥のうえに不意に現れる××とか、雨の日にだけ鈴の音とともに現れる黒い和服の女進む先が××であるとか、奇妙な老人が居る場所が××であるとか、風呂場の窓に映った××とか、ガレージに潜む××とか・・・。

また、全編主人公の一人称・独白形式で進むのも「きつねのはなし」とは異なります。つまり、各主人公が抱く恐怖感情を、ひたすら分かち合う事になります。これがまた読者を煽るわけです。

 

 

 

②救いのあるラスト

もう一つ、「きつねのはなし」とは違う点。それは「営繕かるかや怪異譚」の方は、救いのあるラストとなっている点です。

 

「きつねのはなし」は前述の通り、人知を超えた異形のモノの恐怖なので、模糊とした恐怖のまま救いも無く終わります。

 

本作の場合は、怪異に巻き込まれる主人公たちの前に営繕屋の尾端が現れ、亡者たち意を慮って営繕屋の知恵で対処策を編み出します。

尾端は、なぜ彼らがその様な行動を取るのかを、彼らの立場になり推測し、営繕屋の腕で物理的に解決へ導きます。この尾端の存在が、どこか地に足がついていて現実的で、読者は主人公たちといっしょになって救われほっとできるのです。

 

 

 

 

結局、「きつねのはなし」と本作の違いを総括すると、本作は「人間」を描いている点に帰結すると思います。人間の感情を描いているが故に、芳醇な恐怖小説昇華しています。どちらかというと、人間臭さを感じられるホラー小説が読みたい、怖いけれど最後には救いのあるホラー小説が読みたい、という方は是非、この夏は「営繕かるかや怪異譚」をどうぞ。(もちろん、「淡麗」も「芳醇」もどちらも気になる方は、是非“利き酒”してみて下さい)

 

 

 

※追記

 

和風ホラー小説もいいけれど、西洋のゴシックホラー小説も読みたい、という方。

極上のゴシックホラー小説、紹介します。

shosetsu-eiga-alacarte.hatenablog.jp

  

 

 

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