小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

春におすすめ出会いの小説②友情編「風に桜の舞う道で」竹内真・著

「この寮で一カ月以上も暮らしてるとさ、受験勉強の仕方を三タイプに分類できるってのが見えてくるな」

「知力でやる奴、気力でやる奴、体力でやる奴、だよ」

「あのさ、僕はどのタイプに入るわけ?」

「アキラの場合は、みんなと違って指向性が見えにくいんじゃないか?何かを目指すっていうベクトルが曖昧だから、受験勉強でタイプ分けしようと思っても判断がつかないんだよ」

「・・・・・・・・・・」

新潮文庫「風に桜の舞う道で」竹内真・著 94~99ページより)

 

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どうも。

前回記事の最後で予告した通り、「友情編」をもう一つご紹介することにしました。

いつもは最低2回は通読した作品の中から「これは」と思うものを紹介しています。しかし、今回ご紹介する作品は、最近人にすすめられて初めて読んだ作品でした。良かったら紹介し、そうでもなかったら紹介しないつもりでした。良かったので紹介することにしました。

 

ということで、本日ご紹介するのは竹内真さんの「風に桜の舞う道で」です。

 

目次

  • 「風に桜の舞う道で」キーワード
  • 登場人物紹介
  • あらすじ
  • 味わいポイント

  ①浪人生の肖像(リアル)

  ②10年後の真相(リアル)探し

 

 

「風に桜の舞う道で」キーワード

大学受験不合格 桜 浪人

予備校寮 10年後 合格 4月

 

 

登場人物紹介

  • アキラ・・・主人公。親に勧められた早稲田大学を狙うも不合格。予備校の桜花寮に入寮し、早稲田大学教育学部を目指す。
  • ヨージ・・・作家志望のニヒリスト。早稲田文Ⅰを目指す。
  • リュータ・・・夢は「世界制覇」と豪語する熱血漢。東大文Ⅰを目指す。
  • 延岡・・・将来は「社長」になりたい。ついたあだ名は「社長」。早稲田大学 を目指す。
  • ニーヤン・・・あだ名は本名新山から。おしゃべりで自慢話が多い。当初は私立大学を志望していたが、途中から国立狙いに変更。
  • サンジ・・・元ラグビー部。血の気が多い。ラグビーを続けたいため表向きは早稲田志望としつつ、本当は明治大学狙い。
  • 吉村さん・・・口数が少なく近寄りがたい雰囲気からあだ名が付かず、苗字にさん付けで呼ばれている。東大文Ⅱ志望。
  • ダイ・・・部屋中に合格祈願の札を貼り、お守りを何個も持っている。麻雀好き。ついたあだ名が「大三元のダイ」。東大文Ⅰ志望。
  • タモツ・・・部屋中にアイドルのポスターを貼りまくっているオタク。東大文Ⅰ志望。
  • ゴロー・・・ごくおとなしい性分。医者の息子。家業を継ぐべく東大理Ⅲを志望しているが、本当は人間より動物に興味がある。

 

 

あらすじ

1990年4月。大学受験に失敗した主人公アキラは、特待生試験を受けて予備校の寮「桜花寮」に入寮することになる。桜吹雪の中降り立ったバス停で出会ったのは、同じくこれからの1年間を桜花寮で暮らすこととなるヨージとリュータだった。

2000年4月。バブルが弾けて廃墟となった桜花寮で再会したアキラとヨージ。二人は「リュータが海外で死んだ」という噂の真相をたしかめるため、あの1年間を共に過ごした元寮生たちに連絡を取っていくー。

桜花寮に集った浪人生たちの1年間と、彼らの10年後。海外で死んだというリュータの噂はー。

 

風に桜の舞う道で (新潮文庫)

風に桜の舞う道で (新潮文庫)

  • 作者:竹内 真
  • 発売日: 2007/09/28
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

味わいポイント

①浪人生の肖像(リアル)

最初、「①リアルな群像劇」にしようと思いましたが「劇」と付けたくなかった。それほどリアル。

 

受験勉強の「孤独」、ともに戦う仲間がいることによる「弛緩」、仲間がいるからこそ気づいた「夢」、仲間がいるからこその一種の「重圧」。

「桜花寮パート」には受験生・浪人生の肖像(リアル)が詰まっている。

 

 「孤独」

受験勉強そのものは基本孤独。ひたすら必要な知識を詰め込み、インプットしたそれらを模試やら赤本やらでアウトプットして結果に一喜一憂し、また足りない部分を詰め込む。トライ&エラーの繰り返し。

301号室のベランダから身を乗り出すと、桜花寮の全ての部屋を見渡すことができる。薄暗い朝の中、203号室と206号室にも明かりがついているのがはっきりと分かった。 ~略~

この時間まで勉強をしていることを示す明かりである。

(95~96ページ)

 受験勉強から遠く離れた今、その様子を傍目に見れば、机に何時間も噛り付いてこんな事をずっとやっているわけである。孤独だ。

 

「弛緩」

しかし、本作の舞台は予備校の寮。まわりには同じ志の仲間がいる。若人が10人も集まれば、やらかす事は大体ご推察の通りw

十二時を回った頃、酔っぱらったニーヤンが声を上げた。あまり寮内で騒いでいるのもまずいから外に出ようというのだ。

寮長夫妻にばれないように足音を殺して階段を下り、塀を乗り越える。

(207ページ)

 

「吉村さんも吸うんだ」

「ちょっと試しに吸ってみた」

だいぶ短くなった煙草のフィルターをつまみ直し、口に運んで大きく吸い込む。不慣れそうなぎこちない吸い方が不思議と吉村さんに似合っていた。

(278ページ)

 

「この際、俺は予備校デビューに走るぞ」

「予備校デビュー?」

何のことやら分からずに聞き返すと、ニーヤンは自信たっぷりの口ぶりで説明してくれた

「女作って童貞捨てるんだ。欲求不満は受験勉強の大敵だからな」

その童貞という言葉で、食堂には妙な空気が漂った。

 (101~102ページ)

実際、 「僕は20歳になるまで酒も煙草も女も一切やりませんでした!」なんてのがどれほどいるものか。

そのあたりの「弛緩」もリアル。

(・・・あ、すいません。悪ぶってみましたが実はブログ主は堅物のつまんない奴だったのでお酒は20歳になった0時に初祝杯を挙げ、煙草に関しては今現在まで吸ったことありません。異性関係はノーコメントw ただ、自分の様な人間はむしろ少数派かなと)

 

「重圧」

一方で、仲間がいるからこその「重圧」もある。

大学入試センター試験は一月中旬に行われ、それを受けてきた東大受験組はその夜のうちに自己採点にかかった。

「やっぱりみんな落着かないんだろうな。自己採点やら何やらでそれぞれの部屋を行ったりきたりしてるし、俺が良かったからって浮かれてるのも悪い気がしてさ。」

(382~383ページ)

 

「センターのせいで、東大自体がやばくなってきちまったのもいるんだろ?」

声をひそめ、天井の方を指さす。僕の部屋の真上は305号室である。

ダイが三階の廊下でもう東大はダメだと騒いでいる声は、二階の方まで響いてきた。リュータが三階から二階に避難してきたのも、落ち込んでいるダイに顔を見せるのが辛かったからかもしれない。

(386~387ページ)

 いっしょに戦っているからこそ、お互い表面張力のように緊張感が働いてナーバスになる。これもまたリアル。

 

「夢」

他の寮生が、ある程度大学に合格したその先の事を考えている中、両親の希望で何となく早稲田を志望している主人公のアキラ。それを象徴しているのが、実は冒頭に引用したヨージの一言。

「アキラの場合は、みんなと違って指向性が見えにくいんじゃないか?何かを目指すっていうベクトルが曖昧だから、受験勉強でタイプ分けしようと思っても判断がつかないんだよ」

「・・・・・・・・・・」

 このアキラが物語後半、寮の仲間たちと過ごすうちに自分の中のある事に気づき、やがて大きな進路変更へと繋がる。

 

あくまで「渦中」の彼らを俯瞰することなく、その瞬間瞬間を、単純に描いていく。「桜花寮パート」はまさに受験生・浪人生のリアルが詰まった肖像。

 

 

 

②10年後の真相 (リアル)探し

「桜花寮パート」は単純であるが故にリアル。そこへ海外で死んだというリュータの“真相探し”が軸となる「10年後パート」が織り交ざっていく。

 

こちらはもう単純ではない。

 

アキラとヨージは10年後の桜花寮生たちと再会を果たしていく。そこにはそれぞれの10年間が凝縮されている。

 

寮にいた頃から豪語していた夢を叶えた仲間もいれば、寮にいた頃からすると意外な道に進んだ仲間もいる。その他、エリート街道を進む仲間、家庭を持っている仲間、大学院に残って研究している仲間もいる。

 

寮にいた頃は同じ「根元」にいた彼らも、10年経つと様々に枝分かれしている。人生はこうやって複雑になるのだと分かる。

そんな中、リュータの真相は他のメンバーとは少々異質。しかし20代後半になる彼らにとってリュータの真相も、それはそれでリアルな話しだ。真相はぜひ本編で。

この「10年後パート」は「桜花寮パート」と逆に、それぞれの道が分かれて複雑になっているが故にリアルだ。

 

 

 

ラストは桜花寮入寮式から11年目の4月。

11年前と変わらぬ満開の桜。進む道は分かれて複雑になっても、同じ「根元」を再確認した彼らの友情は永遠。

 

 

 

ということで、「春におすすめ出会いの小説②友情編」として竹内真さんの「風に桜の舞う道で」をご紹介しました。

次回は「春におすすめ出会いの小説」特集の最終回として「ライバル編」に移行する予定です。

それ以降は「梅雨におすすめな小説」特集をしてみようかなと考えています。

それではまた。

 

 

 

※これまでの「春におすすめ小説特集」

 

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