「でも、人生は祝福するべきものだわ。そのすべてを。つまり、その最後さえも。」
わたしは、ホットプレートに載ったポットを手にとって、ふたつのグラスにホットチョコレートを注いだ。
バレンタインにちなんで、チョコレートにまつわる小説はいかがですか?
ご紹介する小説は、
ジョアン・ハリス(Joanne・Harris)さんの「ショコラ」です。
目次
- 「ショコラ」キーワード
- 登場人物紹介
- あらすじ
- 味わいポイント
チョコレートの甘さほろ苦さの先にあるもの
「ショコラ」キーワード
バレンタイン
不思議な母娘
チョコレート
小さな田舎町 司祭
復活祭 ロマ
登場人物紹介
ヴィアンヌ・・・主人公。小さな田舎町でチョコレート店を開く
アヌーク・・・ヴィアンヌの幼い娘
レノー・・・町の司祭。ヴィアンヌのチョコレート店を堕落的として敵対心を抱く。
ギヨーム・・・シャルリという愛犬と暮らす老人
ジョゼフィーヌ・・・村の住人。夫のDVに耐えている。
アルマンド・・・町はずれに暮らす変わり者の老女。
リュック・・・アルマンドの孫
ルー・・・村の川岸にやって来たロマ人の一員
あらすじ
フランスの小さな田舎町ランスクネ・スー・タンヌ。2月11日「告解の火曜日」のパレードの日に風変わりな母娘がやって来た。ヴィアンヌと幼い娘アヌークは早速、教会近くの家を借りてそこに住みはじめる。住人や司祭たちが遠巻きに眺める中、ヴィアンヌは「ラ・セレスト・プラリーヌ」というチョコレート店を開く。
最初は寄り付かなかった住民たちも、客の好みをすぐに見抜くヴィアンヌと彼女が勧めるショコラに心を開いていく。しかし、レノー司祭だけは敵対心を強めていく。そんな折、町はずれの川にルー率いる放浪のロマの人たちがやって来てー。
味わいポイント
チョコレートを題材にした物語。
一軒のチョコレート店とそこに集う人々、人々がチョコレートで心を溶かしていく・・・。甘くて優しい、時にほろ苦いショコラが表現するおしゃれな物語を想像する人が多いのではないでしょうか。実際、その手の物語は数多あるでしょう。そして、本作もそういった面はあります。
主人公ヴィアンヌには不思議な力があります。彼女はその人の好むショコラをすぐに見抜いてしまう。そのおかげで、動物に魂は無いというキリスト教の常識を受け入れられず、司祭に嘲笑されているギヨーム老人や、夫のDVに耐え続けて完全に尊厳を無くしているジョゼフィーヌ、町はずれに住む変わり者の老女アルマンド、母親に自我を奪われているアルマンドの孫リュックといった“はぐれ者たち”の拠り所となります。そして、ヴィアンヌのショコラは敵対するレノー司祭の取り巻き達までも、次第に惹きつけていきます。
しかし、この物語の核は、そういった一種の小手先技ではありません。「チョコレートは甘いだけじゃない」とか「チョコレートのほろ苦さ」といった“味覚”の域を超えないものではありません。味覚の更に奥にある、ショコラそれ自体の本質にまで突っ込んだ物語といえる気がしてなりません。
チョコレートの甘さほろ苦さの先にあるもの
物語は2月11日、キリスト教の「告解の火曜日」から3月31日の「キリスト復活の日」までを時系列で、ヴィアンヌとレノー司祭両者の目線・独白形式で進みます。
ヴィアンヌはどこまでも気の赴くまま。キリシタンではない彼女は村の絶対的存在である教会には行きません。村人たちがならず者と決めつけ追い出そうとしているロマの人々とも積極的に交流します。すべては彼女がそう望むからであって、彼女自身が楽しいと考える事やものをとても大切にしています。
それは他人に対してもそうであり、相手の主義を尊重し、あるがままに受け入れます。ただ、相手が自身ですら気づいていない本当の望みを手に入れるために背中を押すことはありますが。
一方のレノーは、ご推察のとおりヴィアンヌの真逆をいきます。端的に言えば、抑圧と独善、不寛容、そして猜疑といったところでしょうか。
ヴィアンヌも含め、アルマンドやギヨーム、ジョゼフィーヌ、リュック達が本当の望みを手に入れていくの見ていると、自分が本当に望むものを知るのは案外難しいのではないか、と思えてきます。自分のものではあっても、心の底というものはなかなか攫う事ができない。また、自分の望むものを手に入れるために闘うのは、時として抑制や自律あるいは常識である事を、この物語はさりげなく示唆している気がします。
ショコラの本質は「自分の本当の望み」の様な気がします。ショコラを堕落ととるか、幸福ととるかはきっと、あなた次第・・・。
ちょっと元気の無いときに、自分を律しすぎてしまう人に、あるいは冬の寒さに耐えながら春を待つ季節に、チョコレートをひとかけら口に放り込みながら本作を味わってはいかがでしょうか。
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