小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

弾いたメダルチョコの出る目は表か裏か「銃とチョコレート」乙一・著

 

「カードをうらがえして確認したまえ」 彼が言った。

カードのうらには、風車小屋の絵が小さくえがかれている。

ぼくは目のまえの人を見あげた。

名探偵ロイズ。彼とのであいは、そのようにおこった。

講談社文庫「銃とチョコレート」乙一・著 63ページより)

 

銃とチョコレート (講談社文庫)

 

こんにちは。

前回の記事で紹介した爆買いチョコレート達をとっくに食べつくしたブログ主です。

平日はほとんど甘い物は食べないし、線が細い所為か表向き「少食」と思われてるので、「裏爆食いブログ主」を知らない連中が見たら同一人物と思わないだろうな。

そう、人には誰しも表と裏があるものです。

ところで、バレンタインにおすすめの本として既にご紹介したものは2つありました。一つが昨年ご紹介したジョアン・ハリスさんの「ショコラ」。こちらは「人生の讃美歌」とでも言うべき中々に深いテーマの作品でした。

 

そしてもう一つは先日紹介した波乱万丈なV・F・モロゾフの伝記2篇でした。

 


とちらも中々に重厚なものだったと思います。なので、今度はもう少し軽快な作品をご紹介したいと考えました。

たしかに軽快なのですが、それだけではありません。軽快であると同時に登場人物や社会の表と裏が交差する「鋭さ」というスパイスも併せ持っている作品です。

という事で本日ご紹介するのは乙一氏の「銃とチョコレート」です。

 

 

目次

  • 「銃とチョコレート」キーワード
  • 登場人物紹介
  • あらすじ
  • 味わいポイント

  ①表裏の入れ替わりはまるでコイントスのように

  ②メダルチョコの中身は本当に駄菓子のチョコか?

  ③でもやっぱり胸躍る少年探偵小説の顔

  • 余談ですが・・

  ①登場人物たちの名前

  ②『銃とチョコレート』×ビッグバンドジャズ『Jumpin’ Jack』

 

 

「銃とチョコレート」キーワード

怪盗 探偵 地図 聖書 風車小屋 金貨 少年 拳銃 チョコ カード

表と裏

 

 

登場人物紹介

 

  • リンツ・・・主人公の少年。11歳。父を亡くし母と二人暮らし。
  • デメル・・・リンツの父。肺の病で亡くなる。移民の出自。
  • メリー・・・リンツの母。夫亡き後、女手一つでリンツを育てる。
  • ロイズ・・・国民的名探偵。ゴディバを追う。
  • ブラウニー・・・ロイズの秘書。
  • ドゥバイヨル・・・リンツの通う学校一のワル。
  • ゴディバ・・・大富豪の財宝ばかりを狙う怪盗。

 

あらすじ

 

世間を 賑わせている怪盗ゴディバによる「英雄の金貨盗難事件」。古新聞で事件の記事を読む主人公リンツリンツの父は移民。移民には良い働き口が無く、リンツの家では新聞を取ることが出来ない。

リンツは父のデメルと買い出しに出た市場で、ある露天商から聖書を譲られる。

しかし、それからしばらくして父デメルは持病が悪化し、帰らぬ人となる。

ある日、リンツは父の形見である聖書から1枚の地図を見つける。地図の裏には風車小屋の絵と聖書の一文『神は言われた。「光あれ」こうして光があった』が記されていた。程なくしてリンツは怪盗ゴディバの犯行カードには署名以外に風車小屋の絵が記されている事を知る。

それから少しして新聞にこんな広告が出る。『怪盗の情報に懸賞金』。広告主はゴディバを追う国民的名探偵ロイズだった。リンツはロイズに地図の情報を書き送る。

ロイズから何の返信も無いまま1週間が過ぎたある日、リンツは学校一のワル、ドゥバイヨルが老人に暴行している場面に遭遇し老人を助ける。

数日後、老人の使いだというブラウニーなる人物に誘われてホテルの一室に通されたリンツが向かい合った人物は、紛れもない国民的名探偵ロイズだった!

リンツはロイズとともに怪盗ゴディバを追うことになるが・・・。

 

銃とチョコレート (講談社文庫)

銃とチョコレート (講談社文庫)

  • 作者:乙一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/07/15
  • メディア: 文庫
 

 

 味わいポイント

①表裏の入れ替わりはまるでコイントスのように

 

映画やドラマでよく見かけるコイントス。コインを指で弾いて表が出るか裏が出るかで何かを決する、ちょっと気障(きざ)なあれです。登場人物たちのほとんど全員があり、まるで投げられたコインの様に表と裏が交互に現れます。

 

あらすじを一読されると、怪盗だの名探偵だの地図だの犯行カードだの「いや、往年の少年向け探偵小説かよ」と鼻でせせら笑う方もいるのではないでしょうか。・・・引っ掛かりましたね。「あらすじ」は全てが引っくり返る前、まだ表しか見えてない状態で敢えて書き留めました。この後、登場人物たちほぼ全員の裏側が見えてきます(唯一裏が無いのは健気な主人公リンツだけかも)。それも裏側が徐々に見えてきて「うわあ、怖~い」なんて悠長なものではありません。裏が見えたと思ったらまた表が出て、また裏が出て・・・悠長さは微塵もありませんw

「いい奴」「正義」だと思っていた人物のあり得ない姿。

「ヤバい奴」「悪」だと思っていた人物の意外な行動。

コイントスは何度でも行われるのです。 

 

②メダルチョコの中身は本当に駄菓子のチョコか?

 

 では謎を追って繰り広げられるチェイシングゲーム、純度100%のジェットコースターエンタメ小説かと言うと・・・。ちょっと違うスパイスが隠されているのです。それは鋭い社会風刺です。「社会の裏」が隠しスパイスとして忍ばせてあります。

物語の舞台は架空の国で、ある種族が大多数を占める国ですが僅かながら隣国から祖国を失い逃れてきた移民がいる設定です。移民はあらゆる場面で差別を受けていますが、リンツの友人たちはそんな差別を全く見せずにリンツに接している子たちでした。しかし、ある事件がきっかけで彼らの深層心理「裏」 が見えてしまうのです。

親友のディーンにすがりつこうとした。まるでうすきみわるいものをさけるように、彼はぼくからとおざかった。ぼくはつまずいて地面にひざをついた。やさしいこころのデルーカがちかづいてきてぼくに言った。「このクソったれの移民め!きみは捜査の邪魔をしたんだ!」

(「銃とチョコレート」140ページより)

今まで、一度だってリンツに対して差別的な感覚の欠片も持っていないかに見えていた友人の、深層心理が露呈したセリフ。現実社会でも口先では正義を語りながら、その実深層心理はまったく違っていた、という事ってありませんか?

 

そして、ブログ主的に瞠目したのはこの場面。

「なあ、リンツ。おれ、新聞社ではたらくようになって、しったことがいろいろあるんだ。ひとつは情報操作ってやつだよ。新聞に書かれていないことが結構あるんだ。このまえ、怪盗ゴディバがやったように見せかけた事件があっただろう?あんなふうにまねをするやつがおおいから、わざといろんな情報をふせておく。新聞記者に書かせていないことがいくつかあるんだ。」

(「銃とチョコレート」38ページより) 

何だかとてもタイムリーなセリフに感じました。

 本作の初出しは2006年の雑誌。その後に改稿・文庫化されたのが2016年。つまり「○○を見る会」に代表される政府の胡散臭さが露呈する遥か前から、この台詞は存在したのだと考えるとなかなかどうして鋭い気がw

他にもこんな風刺場面がいくつかあるので、是非探してみてください。

メダルチョコの金紙を破り取った中身は、決して甘ったるい駄菓子のチョコではないのです。

 

③でもやっぱり胸躍る少年探偵小説の顔

 

と、ここまで本作の斜に構えた部分を先行紹介してきましたが、世紀の大怪盗、怪盗の残した暗号、追いつ追われつのデッドヒート、裏切り、思いがけない仲間の登場、そして暗号を解いた先にある「宝」。

主人公リンツ少年の冒険は紛うことなき少年探偵の“わくわくどきどき”そのものです。

コインチョコの表裏が何度変わろうと、コインチョコの中身が駄菓子のチョコでは無かろうと。リンツは、リンツだけは真っ直ぐに立ち向かいます。

是非、リンツが最後にたどり着いた怪盗ゴディバの「宝」を見届けて下さい。

 

 

という事で、バレンタインは少し過ぎてしまいましたが、本年最後の「バレンタインに纏わる小説」特集という事で乙一氏の「銃とチョコレート」をご紹介しました。

次回からは春におすすめの小説紹介にシフトしたいなと思います。

 

余談ですが・・・

 ①登場人物たちの名前

 

本作の登場人物たちの名前。気付いた方も多いかもしれませんがチョコレートブランドの名前です。ちょっとした遊び心、というところでしょうか。

主人公リンツはスイスのブランド、父デメルはウィーンの老舗、母メリーは日本の草分け的ブランド、ロイズは北海道が本拠地のブランド、ゴディバは言わずもがな・・。その他ドゥバイヨル、マルコリーニもチョコレートブランドの名前です。自分のお気に入りブランドがどんな役割を演じるか。ちょっと愉快になる遊び心です。

ブログ主的に、好きなブランドのマルコリーニのラストがモブキャラっぽく終わったのが可笑しかったです。あと、モロゾフさんも出てきます。結構重要なポジションだったので個人的には嬉しかったですw

 

②『銃とチョコレート』×ビッグバンドジャズ『Jumpin’ Jack』

たまに登場するこのコーナー。読んだ後に聞きたくなる、あるいはその小説にピッタリな音楽を紹介するコーナーです。

本作『銃とチョコレート』にはもうこれしかない!

BIG BAD VOODOO DADDYの『Jumpin’ Jack(ジャンピン ジャック)』

軽快でクールなビッグバンドジャズです。


Big Bad Voodoo Daddy - Jumpin' Jack

 

↓「銃とチョコレート」のようなデッドヒートを楽しみたい!こちらの小説・映画もいかがですか?

 

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