小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

映画観てきました「メアリーの総て」感想

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正月休みに「メアリーの総て」という映画を観てきました。

とてもいい作品でした。やっぱり“あの監督”の作品だ、と噛みしめながら映画館を後にしました。監督の話は後に回すとして、まずはあらすじを。

 

あらすじ

 

今から約200年前に著されて以降、現在に至るまで怪奇・SF小説の中で不動の地位を確立し続けている小説「フランケンシュタイン」。作者は当時18歳だったメアリー・シェリー(エル・ファニング)。継母との確執、妻子持ちの人気詩人パーシー・シェリーとの駆け落ち、貧困、わが子の死など壮絶な経験を経て生み出されたのが「フランケンシュタイン」だった。しかし、当時は女性が著した作品に対して正当な評価がされにくい社会であり、出版社から出版の条件として著者を匿名とする事と夫パーシーの序文を添える事を突きつけられるー。

 

感想

 

単なるメロドラマ臭い愛憎劇に始終した、それ自体が見世物の作品とは全く違う次元の作品です。私自身、いわゆる「壮絶な人生譚」というエキセントリックが売り、みたいな作品は観たくないタイプの人間ですが、これは全く異なるものです。

 

本作も前半はかなり壮絶です。継母は嫌味臭くメアリーの創作を妨害し、そこへ現れた人気詩人パーシー・シェリーと恋に落ちますが、彼は妻子持ちである事をメアリーに隠して近づきます。深く傷ついたメアリーでしたが、激情に流され、結局パーシーと駆け落ち。しかし、駆け落ちした彼女を待っていたのは貧困と夜逃げとわが子の死。そして何よりパーシーの理想である「自由恋愛」が彼女を苦しめます。更に悪名高い詩人バイロン卿のもとに逗留する事となると、バイロン卿につられる様に益々自堕落になるパーシー。

 

ここまでで既に私のような凡人には到底ついていけない世界であり、また、私の嫌う愛憎劇だけが売りの様に見えますが、ここからが違うのです。

メアリーは徹底的に現実を直視し、自分の中に引きこもります。結局、彼女が闘っている相手は、理想を掲げながらその実逃げ回っている男であり、世間であったのかなと思います。

もう少し未来への希望がある描写を入れては、と言うパーシーや、「お若いレディがこの様な作品を本当に書いたのか。」と出版を断る出版社に対し、メアリーは言い放ちます。「現実を見て!これが私、これは私が書いた作品よ!」と。

やっと「フランケンシュタイン」に作者メアリー・シェリーの名が刻まれたのは第3版になってからで、映画のラストはメアリーが書店のウィンドウに陳列された第3版を一瞥して身を翻す場面で幕を閉じます。あの一瞥は、これまで観た映画の中でも忘れられないくらい印象的でした。前知識が一切ない状態で観に行ったので、帰宅中にパンフレットを読んで知ったのですが、第3版が出版された直後というのは、彼女が人生でまた一つの喪失をした時だったのです。それであの一瞥の表情だったか、と納得。

 

お近くに劇場がある方は、是非一度ご覧ください。

 

 

監督のこと

 

正直、「フランケンシュタイン」は読んだことが無く、作者メアリー・シェリーの事もまったく知りませんでした。この映画を観たいと思ったのは監督の名を知った瞬間でした。ハイファ・アル=マンスール監督。

彼女の前作にして長編映画初監督作「少女は自転車にのって」を観て、その時にすごい監督だな、と感じました。(こちらの作品もいずれご紹介しようと思います)

監督はサウジアラビアの出身。サウジアラビアといえば、何かと女性に制限の多い国で有名ですね。当然、女性の監督などいません。それどころか、映画館というものが無く、映画という娯楽自体が公式に認められておらず、映画監督というもの自体いないとか。監督は当局から隠れながら撮影して前作を創り上げたらしいです。

しかし、監督をすごいと思ったのは、こういった形式的な部分ではありません。「少女は自転車にのって」でも彼女は理想に溺れず徹底的に現実を直視し、また観客サイドにそれを知らしめるのがとても上手いのです。

前作はサウジを舞台にし、当地で撮影していたので、制約が多かったでしょうが、本作ではそういった制約が無い事で、監督がどんな作品を作ったのかとても興味がありました。

 

 

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