小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

君が笑ってくれればそれでいい・・・ 映画「 少女の髪どめ」

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 「離れた友の、恋の炎で燃ゆるこの心」

「きれいな言葉だね」

「お前さんの心を表したまでだ」

(劇中、主人公と主人公が旅先で出会った老人との会話より)

 

 

 

皆様、こんにちは。年の瀬ですね。いかがお過ごしですか。

ブログ主は27日に仕事納めを迎え、最終関門の忘年会も潜り抜け(忘年会についてはツイッターで大いに愚痴りましたので、ここでは省略。というか思い出したくもない)正月休みに突入しました。

 

いや、ほんと、今年は散々嫌なものを見た年でした。マジで。

 

そんな時は反動で、とてもきれいな・純粋な・純情なものにどっぷり浸って浄化されたくなりませんか。

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ところで皆さんは「イラン🇮🇷」という国名を聞くと、どんな印象を抱きますか?「(アメリカ基準の)悪の枢軸国」「ウラン濃縮」「核開発」。あまり良い印象を抱かない人が多いのではないでしょうか。

しかし、イランって実は美しい映画を産する国です✨色彩の美しさ、詩情の豊かさ、レンズを通した眼差しの優しさ、が共通項でしょうか。

 

そんな魅惑のイラン映画🇮🇷から、とびきり純情な1本をー。

ご紹介する映画は2001年イラン制作映画「少女の髪どめ(原題 BARAN)」です。 

 

 

  

目次

 

  • あらすじ
  • 味わいポイント

 ①粗野な少年⇒超単純な純情一途青年にシフトチェンジ

 ②内気な少女⇒神秘的なまでに複雑な女性にシフトチェンジ

  • 余談ですが・・・

 ヒロイン役のザーラ・バーラミについて

 

 

  

 

あらすじ

 

イランの首都テヘランの冬。主人公ラティフ(ホセイン・アベディニ)は建設現場で買い出しやお茶くみの仕事をしている17歳の少年。粗野で喧嘩っ早く、他の作業員と揉め事を起こすこともしばしば。

ラティフが働く現場には、隣国アフガニスタンからの難民労働者も多い。ある日、アフガン作業員の一人が転落事故に遭い、病院へ運ばれる。翌日、一人の少年が建設現場にやって来る。ケガをしたアフガン作業員の息子ラーマト(ザーラ・バーラミ)で、働けなくなった父に代わり現場で働くというのだ。親方のメマル(モハマド・アミル・ナジ)は、いかにも力が弱そうなラーマトを雇うことに難色を示すが、同情心が勝り試用することにする。

初日の力仕事は何とか切り抜けたラーマト。しかし、翌日に重い石灰袋を高所から落としてしまい、あわや大惨事という失態を犯してしまう。

親方はラティフとラーマトの仕事を交換することに。楽な仕事を奪われたラティフはラーマトを恨んできつくあたる。しかし、ラーマトは屈せず、逆に炊事場を整理し、食事もお茶も評判は上々。ますます面白くないラティフ。

そんなある日、ラティフは偶然にもラーマトの秘密を知ってしまう。

…女の子の歌声が炊事場から聞こえてくる。そっと覗いてみると、長い髪を櫛でとかして結いなおすシルエットが見えた。ラーマトは女の子だったのだ。

翌日からラティフの態度が一変する。ラーマトを見守り、彼女が少しでも困っていそうな場面に遭遇すればすぐに駆けつけて助けたり庇ったりする。

しかしある日、移民調査官が調査に訪れ、届け出をしていないラーマトは調査官に追われてしまう。ラティフの助けで何とか逃げ延びたラーマトだったが、その日からラーマトは現場に来なくなる。

彼女が落としていった髪どめを拾うラティフ。

ラティフはラーマトを探す旅に出るー。

 

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味わいポイント

 

 

①粗野な少年⇒

超単純な純情一途青年にシフトチェンジ

 まず主人公ラティフがすっごく分かりやすい奴です。

物語冒頭のラティフは絵に画いたような悪ガキです。買い出しに出ればつり銭で勝手に自分の物を買うは、転落事故に遭った同僚を搬送する場面で「自殺でもしたのかw」と冗談にもならない軽口を叩くは、周囲の同僚を小馬鹿にして喧嘩を始めるは・・。

ラティフは建設現場の中でも体力的に楽な仕事(食事の準備やお茶入れなど)をしていました。それを新入りのラーマトに取られた形になったため、逆恨み。ラーマトに対して辛辣にあたります。・・・何しろ、ラーマトの事を男だと思っていたのですから。

 

ラーマトに当たり散らすラティフ・・・。

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それが一変、ラーマトが紅一点だと知ってしまった翌日からの変わりようが凄まじいw

態度が180度回転。ラーマトが他の作業員から「頼んだ煙草の銘柄じゃない!お前の目は節穴か?」ときつく責められているのを聞きつければ「煙草なんて煙になりゃみんな同じだろーが」と相手に啖呵を切り、「お茶を入れろ」と勝手に炊事場に上り込む輩を見かければ「この子はお前の召使じゃない。親方に言い付けるぞ!」とすぐに駆けつける・・・。

はい、完全に恋する男子ですね。好きな女の子となると、ついつい気になって助けたくなってしまう。何というか、本当に単純で真っ直ぐなんです。

今時の日本って真っ直ぐなものを「小っ恥ずかしい」と捉える風潮が強くて、なかなかここまで真っ直ぐな描き方は見かけないので、とても清々しいw

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と、ここまでの物語前半はラティフの豹変ぶりが面白おかしかったりするわけですが、後半は次第にラティフとラーマト、2人が置かれた苦しい境遇が影を落としてきます。ラーマトはそもそもアフガニスタンからの難民。今回の父親の大けがで、ラーマトの小さな肩一つに一家の生計が掛かっている状況に。その上、そのラーマトの稼ぎ口すら移民調査官に追われた事で無くなりかけているという非常に苦しい境遇に陥ってしまいます。

 

大けがをして働けなくなった父に代わり建設現場にやって来たラーマト

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きつい肉体労働に従事せざるを得ません・・。 

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しかし、どんなに救ってやりたいと思っても、ラティフ自身も貧しい境遇であることに変わりはありません。そこでラティフは、自己犠牲と言ってもいいほどの行動を取ります。かつて粗野だった少年の面影はどこにも無く、好きな少女にただ真っ直ぐで一途で純情な青年がそこにいました。

 

ラーマトが落としていった髪どめを見つけるラティフ

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 ラティフはラーマトの行方を追う旅に。

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 ②内気な少女⇒

神秘的なまでに複雑な女性にシフトチェンジ

 

一方、ヒロインのラーマトはというと。こちらはこちらで絵に画いたような「THE内気少女」です。

ラティフに女性であることがバレる前、すなわち邪険にされてた頃はもちろんですが、ラティフの態度が急に変わった(笑)後も、彼女は笑顔を見せることはおろか、特に表情を変えません。言葉も一切発しない。それこそ助けられても、ラティフの前では目は伏せたまま。ラティフが遠くに離れてからやっと、視線を上げてちらり、と見るのです。しかしある日、ラティフの持ち場に角砂糖を添えた温かいお茶が置いてありました。ラーマトが置いて行ったのです。言葉は交わさないけど、ラーマトの方から始めてアクションを起こしたシーンでした。

しかし、調査官から逃れた後、ラティフが集落に探しに来た際は、彼が気付くより前に姿を隠してしまいます。かと思うと家にやって来た彼を追い返すでもなく父親に取り次いだり。ラティフから遠のいたり近づいたり、単純なラティフとは反対でなかなか複雑です。

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そんな彼女が、ラストシーンで初めて正面からラティフと向き合って視線を交わします

物語は終盤、急展開を迎えます。ラティフの自己犠牲的な救いが、結果的にラーマトとの別離に繋がってしまいます。別れ際、じっとラティフを見つめるバラン(ラーマトの本名)。その口元はごく微かに笑っています。それも束の間、見せた微笑をブルカで覆って隠します。それでもトラックで走り去って行くまでずっと、ブルカの下からラティフを見つめ続けます。 

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バランが去った後、彼女が残した靴跡に雨が降り注ぎます。それを見つめながらラティフが微笑むシーンで映画は幕を閉じます。知ったばかりの彼女の本名(バランは雨の意)と重ね合わせ、バランが幸せならそれでいい、といった微笑みです。

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 イランでは、雨は冬の終わり・春の兆しなのだそうです。

ラティフとバランの行く先にも、厳しい冬が終わり暖かな春が訪れる、そんな希望を抱かせる余韻残るラストが胸に迫ります。

 

たまには素直に、奇をてらうことなく、どこまでも真っ直ぐなものを観て浄化されたい、という時に是非「少女の髪どめ」いかがでしょうか。

 

 

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それではドロッドロのブログ主も浄化されたところで(?)、本年最後のブログとしたいと思います。来年もどうぞよろしくお願いします。よいお年を!

 

 

 

 余談ですが・・・

 

 ヒロイン役のザーラ・バーラミについて

 本作の制作年は2001年。アフガニスタンタリバン政権とアメリカが本格的に衝突し、アフガニスタンからの難民も増加の一途を辿っていた時代背景があります。本作のヒロインであるバラン役のザーラ・バーラミも実は本当のアフガン難民。難民キャンプで行われたオーディションで監督の目に留まり、ヒロインに抜擢されました。DVD特典のメイキングでは、劇中のバランとは対照的に「女優になりたい」とはっきりした意思を語る姿が印象的でした。

映画のヒットで、イランに家を持つことが出来たらしいです。

 

 

 

 

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