ア・ラ・カルト〜季節と気分で選ぶ小説&映画〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

春の宵に、一瞬にして永遠なる恋のお話しはいかが? 「愛の手紙」ジャック・フィニイ 著

「信じてください。ぼくは、きみがこれを読む八十年もあとの時代に実在し、生きているのですー。きみと恋に落ちたことを、心の底から信じながら。」

(ハヤカワ文庫「ゲイルズバーグの春を愛す」ジャック・フィニイ 著 207頁より)

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ご紹介する小説は、ジャック・フィニイ(Jack・Finney 1911~1995)の短編集「ゲイルズバーグの春を愛す」に収録されている「愛の手紙」です。

 

 

 

「愛の手紙」(ジャック・フィニイ)キーワード

 

春におすすめの小説   手紙   インク 

春の夜   時の隔たり

ペン 机の隠し抽斗 80年

 

 

あらすじ

 

主人公のジェイク・ベルクナップは1962年のNY・ブルックリンに生きる24歳の青年。ジェイクは古道具屋で古い壁机を買う。ある夜、その机に隠し抽斗(ひきだし)を発見する。中には古いインクとペン、羊皮紙、そして一通の手紙が入っていた。その手紙を書いたのは、ヘレン・エリザベス・ウォーリー21歳、1882年のNY・ブルックリンに生きる女性だった。そこには彼女が思い描く“理想のひと”宛てに、望まぬ結婚への絶望が綴られていた。ジェイクはいっしょに入っていた古いインクとペンで返事を書き、ポストに投函した。-すると、数日後に二段目の隠し抽斗にヘレンからの返信を発見する。ジェイクは再び春の夜の静寂の中で返事を書き始める。残る抽斗はあと一段。そこに入っていたのは・・・。

 

 

 

味わいポイント

 

なまめかしい春の夜は時の境界も消える?

 

時空超越、いわゆるタイムスリップ。SF小説で使い古されたお題でしょう。しかし、本作は妙に生々しい気がします。それは、この物語が春の夜を舞台にしているからかも知れません。

 

主人公のジェイクは、春の真夜中80年前という遠い過去に生きるヘレン、顔も知らない彼女を想って手紙を認めます。そして真夜中のストリート、開発が進みヘレンの生きていた時代の面影が失われていくストリートを歩き抜け、ポストの闇に手紙を投函します。

春の夜の情景も、ヘレンを想って手紙を認めるジェイクの心情も、とても細やかに描写されています。読者はおそらく容易に彼らが手紙を認めあう姿が浮かんでくるのではないかと思います。それだけでなく、彼らの使う灯りや窓から忍び入る夜気、更には手紙を書くときの穏やかな息遣いまでも。

 

誰しもこんな経験があるのではないでしょうか。ジェイクやヘレンの様に、誰かの事を考えてたり、それ以外でも何かに頭を悩ませていたり、あるいは気に入った音楽を聞いていたり、面白い小説を読んでいたり・・・。ふっと正気付くと、夜のど真ん中独りでいた。作中の言葉を借りるならば、“世界が眠りについた中、自分ひとりが存在している” そんな思いにとらわれた事はありませんか。そんな思いにとらわれると、不思議と意識は外に広がる夜の世界へ向けられるー。特に春の夜は、空気も暖かくゆるんで、窓を開けている事も多いでしょう。

そんな時は、もしかするとあらゆる境界揺らいでいるのかも知れません。“”も例外でなく・・・。

 

一瞬にして永遠の邂逅

 

本作の場合、その境界は“”ですが、時の境界を越えて結びついたジェイクとヘレンの想いはとても甘美です。

80年の時の隔たりがある2人は、始終顔を合わせることなく、3回の文通のみで結びついています。それでも2人は恋に落ちたこと心から信じています

手紙には秘められた本音が宿り、生身のやり取りは無くとも、それ以上に濃密邂逅となります。

しかし、紗の帳のように揺らいでいた境界が、また鉄の壁に戻る時が来ます。ラストは、“時”という境界が立ちはだかり、ジェイクとヘレンの夢は終わりを迎えます。しかし、互いの記憶の中に永遠の思い出として残る事となります。

 

冬が終わり夜気が暖かくゆるむ春の宵に、またはちょっと切ない恋愛小説が読みたいときに、是非どうぞ。

 

 

余談ですが・・・

 

ブログ主はこの作品を読んだとき、リストの「愛の夢」かショパンの「夜想曲ノクターン)」を思い浮かべました。読後、この2曲を聞いてみるのもおすすめです。おそらくイメージにぴったりかと。

 

 

 



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