「<ティンカー・リンカー>のピーチパイ!白桃を使ってて、とってもとってもおいしいの!」 そしてそのまま、小佐内さんの笑顔は凍りつく。 蒸し暑い夏の日、この瞬間ぼくと小佐内さんの間にしんと冷えた空気が下りてきたのを、ぼくは確かに感じていた。 (…
するとどこかで、ふしぎな声が、 銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、 ぱっと明るくなって、 まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、 そら中に沈めたという工合 ( 新潮文庫「新編銀河鉄道の夜」宮沢賢治・…
俯いた女は折り目正しく頭を下げた。帯締めに下げた鈴がチリンと鳴った。 「お悔やみを申し上げます」 女ははっきりとそう言った。 ( 角川書店「営繕かるかや怪異譚」小野不由美・著 108頁より) ブログ主の住む関東は、なかなか梅雨が明けない日々です…
「若いころは悪さもしたが、恋はいいものだ。」 (劇中、パオさんの台詞より) 6月も半ばに入り、梅雨真っ只中。☂ みなさん、いかがお過ごしですか? 5月まではあんなに青空が多かったのに本当に梅雨入りした途端、ぐずついた空模様ばかり。☂☂☂ なんだか、…
「そういうときこそ気をつけないと」フィルポットは言った。 「いわゆる死の予兆(フェイ)というやつですよ。」 (ハヤカワ文庫「終わりなき夜に生れつく」アガサ・クリスティー著 239頁より) 読み終えた時の第一声、「なんて恐ろしい小説だろう。」こ…
「信じてください。ぼくは、きみがこれを読む八十年もあとの時代に実在し、生きているのですー。きみと恋に落ちたことを、心の底から信じながら。」 (ハヤカワ文庫「ゲイルズバーグの春を愛す」ジャック・フィニイ 著 207頁より) 春本番になって、寒の戻り…
襖の音に、女は卒然と蝶から目を余の方に転じた。視線は毒矢のごとく空を貫いて、会釈もなく余が眉間に落ちる。 ( 集英社文庫「 草枕」夏目漱石・著 91頁より) ご紹介する小説は、夏目漱石の「 草枕」です。 目次 ・「 草枕」キーワード ・あらすじ ・味…