「<ティンカー・リンカー>のピーチパイ!白桃を使ってて、とってもとってもおいしいの!」
そしてそのまま、小佐内さんの笑顔は凍りつく。
蒸し暑い夏の日、この瞬間ぼくと小佐内さんの間にしんと冷えた空気が下りてきたのを、ぼくは確かに感じていた。
( 創元推理文庫「 夏期限定トロピカルパフェ事件」米澤穂信 著 179頁より)
梅雨が明けました!夏です!!バカみたいに暑いです!!!
皆様、いかがお過ごしでしょうか。残暑見舞い申し上げます。☀️🎐
お見舞いついでに、満を持してこの作品をご紹介したいと思います。
米澤穂信さんの「 夏期限定トロピカルパフェ事件」です。
以前ご紹介した「 春期限定いちごタルト事件」の続編です。
続編ですので、「 春期」を読んでいない方は「 春期」から読む必要がありますが、こんな陽気ですから下手に外出するより、冷房ガンガンの部屋で一気読みしてはいかがでしょう。きっと一気読みできますよ😏
目次
- 「 夏期限定トロピカルパフェ事件」キーワード
- 登場人物紹介
- あらすじ
- 味わいポイント
①前作を凌駕する終盤のスリル
②真相を暴けば暴くほど、探偵が小さくなっていく異色のラスト
「 夏期限定トロピカルパフェ事件」キーワード
夜祭り 高校2年の夏休み 補導
スイーツ巡り ドラッグ 狼と狐
誘拐 互恵関係
登場人物紹介
・小鳩常悟朗・・・主人公。船戸高校2年に進級。小市民を志しているが、実は何にでも首を突っ込み知恵働きをして探偵面をしてしまうのが本性
・小佐内ゆき・・・船戸高校2年。小鳩と同じく小市民を志して、小鳩と互恵契約を結んでいるが、実は奸計を巡らして相手を叩きのめすのが本性
あらすじ
「小市民」であることを目指し、互恵関係のもと、慎ましく高校生活を送ってきた小鳩君と小佐内さん。無事、高校2年生になった2人だったが、夏休みを前に小佐内さんから意外な提案をされる。プライベートではほとんど顔を合わせないはずなのに、小佐内さんが提案してきたのは、彼女のまとめた「小佐内スイーツセレクション」の店を巡る事ー。何かウラがあるのではと疑いつつ、半ば強引に引き回される小鳩君だったがー。
「序章 まるで綿菓子のよう」「第一章 シャルロットだけはぼくのもの」「第二章シェイク・ハーフ」「第三章 激辛大盛」「第四章 おいで、キャンディーをあげる」「終章 スイート・メモリー」の六章からなる連結短編集。
味わいポイント
①前作を凌駕する終盤のスリル
前作の「 春期限定」紹介記事でも書きましたが、スリル感・伏線の収集感がパワーアップしています。
と、言ってもはじめのうちは前作の様に「 日常の謎」な様相を呈しています。
「第1章シャルロットだけはぼくのもの」では、美味なシャルロットケーキに心奪われ、つい出来心で小佐内さんの分まで食べてしまった小鳩君の隠ぺい工作とその顛末が描かれますし、夏休みに入った2人は小佐内さんが作った<小佐内スイーツセレクション・夏>のスイーツ店を巡ります。そう、それはまるで夏のひと時じゃれつく恋人同士のようー。
しかし、もちろんこの2人にそんな甘い意思があるわけありません。
章が進むうちに、中学時代に起こったとある不良グループ補導事件の影が見え隠れしてきます。これから起こる「 日常の謎」とは到底言えない大事件の伏線がばら撒かれながら・・・。
小市民たることを希求して止まないはずの小鳩君ですが、事件解決のために自身の持つ推理力をフル稼働して解決に臨みます。
②真相を暴けば暴くほど、探偵が小さくなっていく異色のラスト
そして本作の最大の味わいポイント、というより他の推理小説ではあまり見られない珍しい点。それが「探偵役が暴けば暴くほど、真相の大きさの前に探偵役が小さくなっていく」異色のラストです。
普通なら、探偵が真相を解明しそれを滔々と披露する場面というのは、推理小説においては一番の見せ場であり、探偵役の花道でしょう。
しかし、本作では探偵の小鳩君がいくら後付で真相を解明したところで、今回の犯人は既に目的を完遂してしまっているのです。彼が理屈をこね回せばこね回すほど、逆にその姿が無意味で小さくなっていく・・・。これ以上はネタバレになってしまうので、是非本編で。
この、異色のラスト30頁は普通の推理小説とは違う意味で頁を繰る手が止まらなくなるでしょう。
「 春期限定」が未読の方は是非「春期限定」からどうぞ。そして、異色のラストを体験してみませんか?
涼しい部屋で甘いモノでも食べながら・・・。実際、本作を読んでると甘いモノ食べたくなります。
このクソ暑いのに、ブログ主は近所のケーキ屋に走ってケーキを買い食いしながら読みましたw
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