「それでは皆さん、東天祭の始まりです!」生徒会長がそう宣言した瞬間に文化祭が開幕する。⋯八百人分のエネルギーが一気に解放され、どよめきや足音へ変わっていく。
ご紹介する小説は、竹内真さんの「文化祭オクロック」です。
目次
- 「文化祭オクロック」キーワード
- あらすじ
- 味わいポイント
軽快さと閉塞感、ポジティブとネガティブ
「文化祭オクロック」キーワード
文化祭 文芸部 野球部
ラジオ企画 物理部
FM東天 DJ
携帯電話 時計塔
あらすじ
東天高校の文化祭、東天祭が午前9時を以て華やかに開幕した。それと同時にFM東天というラジオ企画が始まる。司会を務めるのはネガポジと名乗る謎のDJ。ラジオ企画は1時間に一人、生徒が携帯電話を通じてトーク番組に出演し、次の生徒に回すというもの。9時台のゲストに選ばれたのは、3年F組元野球部エースの山ちゃんこと山則之。トークのお題は「今、燃えていること」。部活も引退し、特に浮かばない山ちゃんに、DJネガポジは3年A組のユーリこと斉藤優里への恋に燃えているのでは、と焚き付ける。更に、何十年も止まったままの時計塔にボールをぶつけ続けて直した暁にはユーリが付き合うと公言していたと山ちゃんに告げる。これを真に受けた山ちゃんは、早速時計塔へ向かう。
しかし、そんなことは一言も言っていないユーリはデマを流されたことに腹を立て、DJ探しを開始する。一方、時計塔にボールを投げ続けていた山ちゃん。しかし、10時台に近くの窓ガラスが割れ、山ちゃんは濡れ衣で先生にしょっ引かれていく。
11時台にゲストとなったのは2年C組の文芸部員コーラこと古浦久留美。彼女はトーク中に山ちゃんの濡れ衣を鮮やかに解いていく。この放送を聞いていたユーリはコーラにDJ探しを依頼する。
その頃、メカオこと3年A組の物理部員寺沢祐馬は携帯で密に誰かと連絡を取っていた・・・。
味わいポイント
2009年の作品なので、スマホやLINEではなくケータイとメールが主流な時代の学園ミステリです。今の中高生には若干の違和感があるかも知れませんし、学生時代にケータイが無かった世代には身近に感じられないかも知れません。(ブログ主の場合は高校時代が約10年前なので、ケータイとメールがどストライクです!)しかし、文化祭の熱気は全世代共通だと思うので、どの世代でも楽しめる作品だと思います。
軽快さと閉塞感、ポジティブとネガティブ
とにかく軽快です。少なくとも読み出してしばらくは軽快で、全体的にも軽快で疾走感あふれる雰囲気です。この小説には文化祭の粋が集結しています。
大声で宣伝する出店の店番係りと、それに乗ろうかどの店を選ぼうかという客達。アクシデントの発生。部活の発表はと言えば、出店等の表舞台とは違う裏方のドタバタがあったり。「緞帳上げる時間なのにまだ準備できてません!」とか、あるいは誰も来ないので「お前、呼び込みして来い!」ということもあるかも。
物語冒頭で生徒たちが文化祭開幕後に一斉に走り出すところからして、読み手は一気に東天高校の生徒の一人になってしまい、そして書いていないような事までも読み手各々の「文化祭の思い出」を呼び覚まして脳内補完してしまうかも知れません。
文化祭は、まさしく高校生活のポジティブなところを全面的に押し出したものと言えるでしょう。企画も発表も遂行も、いつもの学校生活以上に高められ、故に非日常的なまでのきらきらしさがあります。
そこへFM東天というラジオ企画が加わって、更に拍車が掛かります。
ラジオというものも一種ポジティブなものでしょう。DJはいつでも軽妙な語り口で、大抵は投稿者の味方をし、決して雰囲気を壊さない。
しかし、読み進めるうちに軽快さとは反対の、重く暗い、学校生活のネガティブが見え隠れしてきます。閉鎖社会の、陰口・噂話・誹謗中傷・・・。学校裏サイトやネット掲示板は、時として書き手の感情がむき出しになり、誰も彼もが自分を認めてもらいたがって主張しまくる。雰囲気をぶち壊すことを楽しむ者もいる。物語はこういったネガティブな面にも直面します。
とはいえ、ラジオに出演する生徒たちとDJネガポジのやりとりは、ラジオそのものという軽妙さで進んでいくので読みやすいですし、探偵コーラこと古浦久留美と斉藤優里がDJを突き止めようと奮闘していく様子や、どうもそれを阻止しようとしているメカオこと寺沢祐馬達とのデッドヒートは頁を繰る手が止まらなくなります。
文化祭・体育祭・運動会・合唱祭・音楽祭etc・・・社会人や家庭人になり、くたびれてしまった(笑)元学生の皆さん。学園行事が目白押しな秋に差し掛かったら、もう一度学生時代を思い出してみませんか。もちろん、今現在学生ですという人はタイムリーに楽しめる特権があるでしょう。
※追記
本作の様な学園×ミステリがお好みでしたら、こちらの学園ミステリ小説もいかがでしょうか。
shosetsu-eiga-alacarte.hatenablog.jp
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