ア・ラ・カルト〜季節と気分で選ぶ小説&映画〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

報道の大義を賭けて政府と対峙する新聞社を描く映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

報道の自由を守る方法は一つ。報道することだ。」

(劇中 ベン・ブラッドリーの台詞より)

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ご紹介する映画は、2017年アメリカ制作映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(原題The Post)」です。

 

あらすじ

 

1966年、ベトナム。米国のシンクタンクであるランド研究所所属のアナリスト、エルズバーグは現地で戦況を調査していた。アメリカへの帰国便の中で、当時の国防長官マクナマラから戦況の説明を求められたエルズバーグは「泥沼化」と報告した。

しかし、本国に帰還したマクナマラは記者達に「戦況は好調」と報告した。その後も政府は戦況を偽り、若者を戦地へ送り続けた。エルズバーグは密かに研究所から自らがまとめた調査書を持ち出し、コピーをする。

それから5年後の1971年、ワシントン。ワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハムは社の株式公開を控えている。しかし、経験が浅いうえに男性優位社会での女性社主ということで、他の経営陣であるフリッツやアーサーに守られていると同時に軽んじられてもいる。キャサリンは夫が数年前に自殺したため、急に社主を継ぐ事になったのだった。

一方、社の編集局の編集主幹ベン・ブラッドリーはニューヨーク・タイムズ社の敏腕記者シーハンが3か月もの間、記事を書いていないことから、特ダネをつかんでいることを察知する。ベンの予想通り、タイムズにとんでもない記事が出る。それは、ベトナム戦争に関する調査報告書、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」の一部。1965年にはこの戦争に勝てないことを知りつつ、歴代の大統領たちは嘘をつき続けていたというのだ。

タイムズに後れを取ったと悔しがるベンだったが、ほどなく激怒したニクソン大統領がタイムズに差し止め請求をするという前代未聞の“権力による報道規制”が行われる。

タイムズがつかんだ報告書は一部に違いないと踏んだベンは、他の記者たちと共に残りの文書入手に乗り出す。

記者の一人、バグディキアンはランド研究所に勤めていた経歴を持ち、報告書をタイムズに渡したのはエルズバーグだと推測し、彼との接触に成功する。必ず記事に掲載し、政府の嘘を暴いてくれることを条件に、エルズバーグはバグディキアンに4000ページに及ぶ報告書のコピーを渡す。

株式公開が無事に済んだキャサリンのもとに、ベンから文書入手が伝えられる。しかし、社の法律顧問からタイムズと同じ情報源からの入手文書の場合、掲載すればタイムズ社と同じく罪に問われ、キャサリンとベンは下手をすれば投獄。社主の有罪判決は非常事態とみなされ、株式公開は白紙になり、ワシントン・ポスト社は消滅する可能性があると指摘される。フリッツやアーサーら他の経営陣が掲載に反対する中、キャサリンは社主として掲載する決断を下す。

翌朝、ワシントン・ポスト1面に掲載された「ペンタゴン・ペーパーズ」の詳細。

早速、国防省から掲載を中止するよう電話が入るが、ポストはこれを拒否。ワシントン・ポストと政府との、報道の大義を賭けた法廷対決に突入する・・。

 

味わいポイント

決断までの細やかな描写とそれを魅せるドラマチックさ

 

はっきり言って扱っている題材自体は小難しく(ある程度は観る人を選ぶ映画だと思います)、描き方を間違えると地味になりかねないものであったと思います。

しかし、決断自体の大きさと、そこへ至るまでのドラマチックさが、この作品を単に小難しく地味な作品にはさせていません。それどころか、ラストは重厚であると同時にスカッとする爽快な余韻が残ります。

「決断」パートは社主であるキャサリンが、「ドラマチック」パートはベンをはじめとした編集局の面々が担っています。

 

決断までの細やかかつ多様な描写

 

これは主にキャサリンが担うパートでしょう。

機密保護VS報道の自由・・・を更に超えた「国民に対する報道の義務」

何といってもまず、キャサリンが下した決断そのものと言える根幹はこれでしょう。

国家が機密保護を振りかざしつつ、明らかな暴走をはじめた時・・・。社の利益追求としての“報道の自由”を通り越して、たとえ社を犠牲にしたとしても国民の不利益を暴く、使命としての“報道の義務”。キャサリンには社主としてその覚悟が問われるのです。この使命は最初から現前としていたものではありません。事態が進むにつれて現れてきた思いもよらなかったこの使命に、キャサリンは次第に気づいていきます。周囲の掲載是非の声と相まって、キャサリンの決断へ至るまでは細やかに描かれています。

その他、決断に至るまでの多様な側面

 その他にも、彼女の決断の別の側面として、嘘をついていた元国防長官マクナマラとの友情、社の株式公開直後というタイミング、キャサリンを軽んじてきた他の経営陣との関係性の決定的な変化などが、彼女の決断を支え、または決断の余波として描かれます。

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↑男性社会での女性社主という事で、軽んじられていると同時に自分でも自信が持てないキャサリン 

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 ↑文書を巡り、友人でもある元国防長官マクナマラとの決別を決意

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 ↑様々な側面を経て決断を下すキャサリン

ドラマチックな展開

一方、こちらは編集主幹ベンを中心とした、現場で闘う編集局の面々が担っています。

ニューヨークタイムズに“先を越された”と、編集者魂に火を付けられたベンは、他のメンバーに発破をかけます。「諸君、仕事をしよう。」と。

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↑文書入手に奔走するベン

 

メンバーの一人、バグディキアンが、タイムズに文書を提供したエルズバーグに接触し、文書の入手に至るシーン。4000ページに及ぶ文書(それもページがバラバラになった文書)をメンバー総出で入稿に間に合うよう、並べなおすシーン。そして、掲載に及び腰な他の経営陣を尻目に、ベンがキャサリンに掲載を訴えるシーン。

どれも現場ならではの、嵐のような鬼気迫るシーンです。

 

同じ目的とリスクを共有したキャサリンとベンの、結実としての「掲載断行」

ここまで、キャサリンサイトとベンサイトで分けて語ってきたように、はじめのうち二人はありがちな「経営者」「現場」でした。キャサリンは金融機関を相手にした株式公開に始終し、一方のベンは他紙に先んじるという”手柄”に始終していました。

それが、次第に明らかになってきた”使命””リスク”共有したとき、ベンはキャサリンの担うものの重さに気づき、キャサリンはそれに応えることで、大きな決断に至るのです。

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この”結実”に下された顛末は、重厚かつ爽快な余韻を残すこと必定です。