小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

聖夜に森を彷徨う可憐な兄妹の運命は・・・。「水晶」 アーダルベルト・シュティフター 著

 

ほら穴の内側は、一面に青かった。この世のどこにもないほどに。それは青空よりもはるかにふかく、はるかに美しい青さであった。いわば紺青の空色に染めたガラスを透してそとの光がさしこんでくるような青さであった。岩波文庫「水晶」シュティフター・著 59ページより)

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早いもので、今年も1か月を切りました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 

・・・1か月を切った、という事はあの日が近づいております。

「クリスマス・イブ」=「独り身の肩身が狭い日」。

 

べべ、別にクリスマス・イブは本来はキリストの生まれた夜の事で、大概の人がキリスト教徒じゃない日本人が祝うことも変なら、ましてや恋人と過ごすなんていうのが広まってるのも変で(以下省略)。

 

・・・えー、恋人いない歴云年の悲しい人間の遠吠えです。はい。ほっといて下さい。

 

ただ、日本のクリスマス・イブが商業主義&浮かれ主義 100%なのは事実だと思いますね。

 

🎄🎁🎄🎁🎄🎁🎄🎁🎄🎁🎄

 

 

 

さて、日本のクリスマス・イブはそんな風ですが、

実直で、純朴で、敬虔で、そして透明度が高い、そんなクリスマス・イブの物語はいかがですか。

ご紹介するのはオーストリア人作家アーダルベルト・シュティフター(Adalbert・Stifter1805年~1868年)の「水晶」 です。

 

 

 

 

目次

 

  • 「水晶」キーワード
  • 登場人物紹介
  • あらすじ
  • 味わいポイント

  ①素朴で実直な「生」に

   満ちた村の暮らし

  ②恐ろしいほど美しく

   「死」が匂う自然

  •  余談ですが・・・

  「水晶」×「セシル・コル

   ベルの音楽」

 

 

 

 

「水晶」キーワード

 

クリスマス・イブ 

山岳と村 教会 

幼い兄と妹     星 贈り物 凍死 

 

 

 登場人物紹介 

  • コンラート・・・村一番の事業家の息子。聡明で妹想いな少年。
  • ザンナ・・・コンラートの妹。素直で健気。

 

  

 

 

あらすじ

 

1800年代半ばのオーストリア山岳地方が舞台。深い山々に抱かれ、隣村との行き来もあまり無い地方だが、クシャイト村の靴師の男が峠を越えたミルスドルフ町の染物工場主の美しい娘を妻に迎えた。

やがて2人の間には息子コンラートと娘ザンナが生まれる。成長した兄妹はこの地方の人々の例に漏れず山に親しみ、峠を越えて祖父母に会いに行くようになる。

クリスマス・イブの日もミルスドルフの祖父母を訪ねていた兄妹。しかし、その帰り道に急な吹雪に見舞われ、道を見失ってしまう。兄のコンラートは妹のザンナを励ましながら道を探すが・・・。(「水晶」)

他、「みかげ石」「 石灰石」「石乳」を収録した短編集。

水晶 他三篇―石さまざま (岩波文庫)

水晶 他三篇―石さまざま ( 岩波文庫)

 

 

 

 味わいポイント

 

 

 ①素朴で実直な「生」に満ちた村の暮らし

 舞台はオーストリア(オーストラリアではありません)の山岳地方。おそらくはチェコと接している南ボヘミアあたりでしょうか。そこにある小さな村クシャイトが舞台です。

作者シュティフターは山に抱かれたこの美しい小さな村を、微細に描写します。

私たちの生みの国の高い山々のさなかに、一つの小さな村がある。そこには、小さい、しかし先のするどくとがった教会の塔がそびえていて、赤染めのその屋根板が、周囲のたくさんの緑の果樹園のなかにきわだっている。その赤い色のために、その塔は、山間の小暗い青のなかにあって、ずっと遠くからも見わけられるのである。(本文12ページより)

 

更にクシャイトの村人にとって自分たちのアイデンティティといってもいいのが、村を見下ろすガルス山。こちらも詳細に描かれていて、村人たちの親しみと畏敬が伝わってきます。

この山の四季の移りかわりに目をやるなら、冬には角と呼ばれる頂上の二つの尖りが真っ白になり、よく晴れた日には、それは空の黒ずんだ青みをまばゆいほどに突き刺している。(本文15ページより)

 

 こうして一年また一年が、ごくわずかな変化をしめしながら紡がれてきたのであり、またこれからも紡がれて行くであろう、自然がいまのままであり、山々には雪が、谷間には人があるかぎりは。(本文17ページより)

 

山の描写が美しいだけでなく、山と村人の生活が密接に結びついている様も、地に足の着いたしっかりとした筆致で描かれています。

さらに、山は、雪におおわれた斜面から水を送りだし、その水は喬木林のなかに一つの湖をたたえ、渓流を生むのである。それはたのしく谷間をつらぬき流れ、製材や製粉やその他の小さい工場の動力となり、村をきよめ、家畜に飲み水を供給する。山中の森林は木材を産し、なだれをくいとめている。高い場所にある地の割け目や、地盤の目のあらいところでは、水は地下へ沈み、そこから地下水として谷をくだり、泉や噴き井となって湧き出る。それらから人々は、飲み水を得、コップに汲んだそのすばらしい一ぱいを旅人にもすすめて、たびたび賞讃のことばをうけるのである。(本文13ページより)

 

そこでは、いく種かの手職がいとなまれているのである。つまり、加工品にたいする山間の人々のつつましやかな需要をみたすべき、人間生活になくてはならぬ手工業なのである。

(本文12ページより)

 

 そして、村全体が一つの家族の様な共同体を組んで生きています。

おたがいにみな名を知りあっているし、お祖父さんや曾お祖父さん以来の、めいめいの家の話も知っている。死ぬ人があれば、みんながかなしみ、生まれるものがあれば、みんながその名をおぼえる。いさかいはあっても自分たちで片づけ、おたがいに助けあい、非常の事があれば、こぞって馳せあつまる。(本文13ページより)

 

主人公コンラートとザンナ兄妹は、こんな素朴で実直な村に育まれた兄妹です。

 

 

②恐ろしいほど美しく「死」が匂う自然

素朴で実直な村で育ったコンラートとザンナ。村に違わず純真な子供たちです。

 

兄のコンラートは大人のいう事をよく理解する聡明な少年。また、この地方に生きる人間として、幼いながら山に精通しており、妹のザンナを庇護し導きます。

「なんでもないよ、ザンナ」と少年は言った。「こわがっちゃいけないよ、ぼくについておいで。どんなことがあっても家へつれてってあげるから。」(本文53ページより)

一方、妹のザンナは兄の後ろをどこまでもくっついて従います。彼女は兄の励ましに対して頻繁に「Ja、Konrad(そうよ、コンラート)」と返事をするのですが、決して弱音を吐かない健気な少女です。 

「眼が痛い」とザンナが言った。

「雪を見ちゃいけない」と兄が答えた。「雲の方を見てごらん。ぼくもさっきから痛いんだ。だがなんともないよ。ぼくは痛くたって雪をみてなくちゃあいけない。道に気をつけなくちゃならないからね。こわがるんじゃあないよ。きっとぼく、クシャイトへ帰れるように下り道を見つけるから」

「そうよ、コンラート」(本文54ページより)

 

 

しかし、この可憐で健気な兄妹を、容赦ない自然が襲います。

冒頭で述べた通り、兄妹の暮らす村は山の恩恵を受けて「生」に満ちていました。しかし、村を一歩出た自然は、どこか「死」の匂いさえ漂わせています。

 

自然も、村と同じく美しいことは美しい。しかしその美しさはこの世のものとは思えない・そら恐ろしいほどの美しさです。

雪に覆われていく大地、巨大な氷河、切り立った岩壁、兄妹の上に瞬く無数の星・・。

 

その最たるものが、冒頭に引用した、兄妹が暖を求めて迷い込んだ氷の洞窟です。

 ほら穴の内側は、一面に青かった。この世のどこにもないほどに。それは青空よりもはるかにふかく、はるかに美しい青さであった。いわば紺青の空色に染めたガラスを透してそとの光がさしこんでくるような青さであった。 

 

自然の圧倒的美しさは、同時に死の匂いを纏っている・・。

村の「生」に満ちた人々の営みから生ずる美しさとは対照を成しており、読者をひどく引き付けるのです。果たして自然の驚異的な美しさを前に、この幼い兄妹の運命はどうなるのだろうか、と。

 

 

このクリスマス・イブは是非、シュティフターの「水晶」を手に取ってみてはいかがでしょうか。名に違わぬ、澄んだ美しい物語です。

 

 

 

 

余談ですが・・・

 

 「水晶」×「セシル・コルベルの音楽」

 以前もジャック・フィニイ「愛の手紙」を紹介した際に、読了後に聞きたくなる音楽を合わせて紹介しました。この「水晶」にもそんな音楽があります。

 


それがセシル・コルベルの『Kamchatka( カムチャッカ)』あるいは『Sans faire un bruit(音をたてずに)』です。

セシル・コルベルジブリの「 借りぐらしのアリエッティ」の主題歌を担当していたフランス人ケルトミュージシャンです。

どちらの曲も雪を連想させるので、「雪」や「氷」の印象が強い本作にはぴったりかと。よかったら聴いてみて下さい。


Cécile Corbel "Kamchatka" (Session acoustique)


Cecile Corbel - "Sans faire un bruit" (HD) - Directed by Yohann Walter

 

 

 

 

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