小説ア・ラ・カルト 〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

男女のタイミングのズレがほろ苦くも爽やか 映画「Onceダブリンの街角で」

 

「彼をまだ愛してる?」

「・・・Miluju tebe」

(劇中の台詞 主人公の質問とチェコ語で返したチェコ移民のヒロインの答えより)

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ご紹介する映画は、2006年アイルランド制作映画「ONCE ダブリンの街角で(原題 ONCE)」です。

 

 

目次

  • あらすじ
  • 味わいポイント

  ①普遍的な出会いと関係性、選択した道

  ②挿入歌そのものが2人の気持ち

  ③たった1度の大切な出会いを噛みしめる映画

  • 余談ですが・・・
  •  予告編動画の紹介

 

 

あらすじ

 

アイルランドの首都ダブリンの冬。昼の街角でギターをかき鳴らす一人のストリートミュージシャンの男(グレン・ハンサード)がいる。誰もが知っている曲のカバー。ところが夜の街角では一転して自ら作曲した曲を、胸中を吐露するように歌っている。聴衆はいないー。しかし、歌い終わった彼の前に一人の女性(マルケタ・イルグロヴァ)が立っていた。「自分で作った曲?」「歌の女性はどこにいるの?」「どうしてこの曲、昼はやらないの?」たどたどしい英語で質問してくる女。彼女はチェコから出稼ぎに来ている移民だった。彼女が音楽に詳しい事を知った男はいっしょに女の行きつけの楽器店へ。そこで彼女のピアノの腕前を知った男は、その場でセッションを持ちかける。出来上がった曲は店の者も聞き入るものになった。そこから2人は音楽を通して交流を深めていくが、2人にはそれぞれとある事情があった。

 

 

 

 

 

味わいポイント

  

「たった一度の大切な出会い」と聞くと、主に恋に落ちる出会いを思い浮かべる人が多いのではないかと思います。しかし、この映画は「恋愛」と言い切るにはあまりに繊細

 2人の微妙に揺れ動く心情と、互いに再生への第1歩となった出会いであった事。それを音楽と共に味わう映画です。

 

 

①普遍的な出会いと関係性、選択した道

この映画を語る上で、よく使われる表現が「普遍的」

本当にその通りだと思います。出会い方仲の深まり方、そして最終的に2人が選択した道

 

出会い方は、ストリートミュージシャンの男の前に雑誌売りの移民の女が現れて声を掛ける。所謂、「ボーイミーツガール。普段から何気なく気になっていたストリートミュージシャンにその日初めて声を掛けた、そんな感じの普通さ

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仲の深まり方も、ごく普通にオフの時間を共にする事で交流を深めていきます。待ち合わせしてお気に入りのアイリッシュ・パブに行ったり、バイクで散策に行ったり。

少々特別なのは、2人が作曲という共通点で繋がり、やがて1枚のデモCDを創り上げる点。その共同作業が、ある面で2人の背中を押すことになります。

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初めて楽器店でセッションした2人。これがきっかけで心を通い合わせます。

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やがて他のバンド仲間を集めて、デモCDの作成を目指します。

 

そして、最終的に2人が選択した道も、やはり普遍的です。男には再度チャレンジしたい夢と、いまだに忘れられない女性がいます。その二つはダブリンから海を隔てたロンドンにあるのです。一方、女には幼い娘がいて、故国には別居中の夫がいるのです。

センセーショナルな関係に落ちる事も、あるいは出来たかもしれません。しかし、2人が選択した道は、やはり普遍的でした。だからこそ、万人の琴線に触れる映画と言えるかも知れません。

たいていの人には、こんな経験の一つもあるのではないでしょうか。出会うタイミング状況違っていれば、もしかすると恋に落ちていたかもしれない。でも、そんな思い切った事はもちろん出来なかった…。そんな人が、あなたにもいませんか?

 

②挿入歌そのものが2人の気持ち

 互いの揺れる気持ちを見事に表現しているのが、2人が創り上げていった数々の挿入曲です。

この音楽映画に挿入されている曲は、他の映画にありがちな、そのシーンを盛り上げるとか、そのシーンをイメージして、といったものではありません。音楽こそが2人の気持ちそのものなのです。男が夜の街角でシャウトしているのは別れた彼女への未練、女が作った曲は別居中の夫への哀切、楽器店でセッションした曲は互いの高揚感、バイクに二人乗りして散策に出かけた時の弾む心、散策先の海を臨む高台で一瞬走った緊張感、スタジオのピアノルームで語り合ったと直後に見えてしまった越えられない…。

どのシーンも最もふさわしい歌が、2人の心情を語ります。

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バイクで散策に誘う男。最初は戸惑った彼女も息抜きに心が弾みます。

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美しい海岸線を臨む高台にやって来た2人。しかし、ここで男がある質問をした事で一瞬、緊張感が走ります。

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収録の合間、ピアノルームにて。このシーンが、2人にとってある意味、一番危うい瞬間だったかも知れません…。

 

③たった1度の大切な出会いを噛みしめる映画

題名「Once」は、「たった1度の」という意味だそうです。たった1度の大切な出会い。

タイミングや状況が違っていれば、「恋愛」になったかも知れない、ずっといっしょにいる関係になっていたかも知れない2人でしたが、そうならずとも互いが人生の再生に踏み出せた大切な出会いでした。完成した1枚のデモCDはその記念として残ります。

安易に恋愛に走ることなく「再生」を描き通した事で、ラストはほろ苦く爽やかな余韻が残ります。

 

 

余談ですが・・・

この作品、実は色々な面で地味にすごい映画です。

 

その① 実はアカデミー賞受賞作品

 

実はこの映画、2008年第80回アカデミー賞歌曲賞部門を射止めた作品なのです。大本命にはディズニーの「魔法にかけられて」から3曲ものノミネートがある中、大どんでん返しで、この小さなアイルランド映画の挿入曲「FALLING SLOWLY」が、見事受賞したのでした。

 

 

その② 米国では当初たった2館の上映だったが、最終的に135館での上映に

本作は所謂インディーズ(低予算)映画。米国では当初、たった2館の上映でした。しかし、口コミで評判(アカデミー賞受賞以前に)となり、最終的には135館に上映館が拡大したのです。

 

その③ 主役の2人は当初、音楽のみの担当だった

本作のジョン・カーニー監督はバンドマンだったという異色の監督。そして主役の男役のグレン・ハンサードは監督の音楽仲間でアイルランドの有名実力派バンドマン。女役のマルケタ・イルグロヴァはグレンと交流がある音楽家だったため、本作に参加することに。グレンもマルケタも当初はその専門性を生かした音楽のみの担当でした。しかし、当初起用予定だった俳優が起用できなくなり、演技経験の無い2人が急きょ演じることに。

しかし本物の音楽家を起用した事で、「6:4=音楽のシーン:音楽以外のシーン」という音楽映画である本作にプラスに働いたのは間違いないでしょう。

 

その④ 本作の共演で恋人同士になった主演2人

映画出演以前から交流があったグレンとマルケタですが、この共演がきっかけで17歳という年齢差を超えて正真正銘の恋人同士になった2人。

映画の後も「THE SWELL SEASON」というバンドで活動し、「STRICT JOY」というアルバムも出しています。しかし、その後破局してしまったらしく、ブログ主の知る限り上記アルバム以降に彼らが共に活動した情報がありません。残念…。しかし、本作の音楽が気に入ったのなら、映画のサントラだけでなく「STRICT JOY」も是非聞いてみてください。

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予告編動画の紹介

 

 

 
ONCE ダブリンの街角で(字幕版)(プレビュー)

 

 

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