小説ア・ラ・カルト〜季節と気分で選ぶ小説(時々映画)〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

日本の正月の陰を描く小説「一月一日(いちがついちじつ)」永井荷風 著

 

「金田か、妙な男さね。日本料理の宴会だといえば顔を出した事がない。日本酒と米の飯ほど嫌いなものはないんだッていうから・・・」

「お分かりになりましたろう。私の日本料理、日本酒嫌いの理由(いわれ)はそういう次第です。」

岩波文庫「あめりか物語」永井荷風・著 214・221頁より)

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一月一日、元日。殊更に「日本」が強調され、“伝統”“文化”という文言がそれに続く、紅白に彩られたこの国で一番おめでたいとされる日。そんな日に敢えてこの作品を推します。

 

ご紹介する小説は、永井荷風(1879〜1959年)の「一月一日(いちがついちじつ)」です。岩波文庫から出版されている永井荷風の短編集「あめりか物語」に収録された作品です。

 

 

 

目次

  • 「一月一日」キーワード
  • あらすじ
  • 味わいポイント

  海外との対比で浮き彫りになる日本の窮屈さ

  • 余談ですが・・・

 

 

 

 

「一月一日」(永井荷風・著)キーワード

 

お正月におすすめの小説 日本の伝統 日本の文化 犠牲 支配者と被支配者 窮屈

 

 

 

あらすじ

明治から戦後にかけて活躍した小説家、永井荷風(1879~1959)。彼の洋行経験に基づく短編集の中の一作。

一月一日の夜、米国にある東洋銀行米国支店の頭取某氏の社宅では、初春を祝う宴会が開かれている。一座の話題に上ったのは、欠席している金田という男の話し。金田は日本料理と日本酒の宴会には顔を出さない。一座の一人が、金田本人からその理由を聞いたという。

金田は、日本酒をどうしても口にする気がしない・・・。においを嗅いだだけでもぞっとするという。酒ばかりでなく、飯から味噌汁から、日本料理を見ると死んだ母を思い出す。痛ましい母の事を・・・。

 

あめりか物語 (岩波文庫)

あめりか物語 (岩波文庫)

 

 

 

 

 

味わいポイント

海外との対比で浮き彫りになる日本の窮屈さ

米国にある銀行頭取某氏の社宅で催されている正月の宴会が描かれます。日本から遠く離れた異国で、久々の正月料理と酒に舌鼓を打つ客達の傍らでは、妻君が忙しく給仕をしています。ニチャニチャ餅を噛む音、汁をすする音、ごまめとかずのこの響きと酒杯の遣り取りの声が、西洋人のいない気兼ねの無さも手伝って、食堂に湧きかえっている冒頭。

そんな中、日本料理と日本酒の宴には絶対に参加しない金田という同僚の事が話題になります。人々が金田を批判する中、本人から事情を聞いたという一人が話し始めます。

金田は、日本酒のにおいから飯から味噌汁から、痛ましい人生だったを思い出すという。封建的な父は、母に対して三度三度の膳に小言を言い、趣味の骨董の扱いを注意し、盆栽の手入れをさせる。そして、宴会があれば、客達が帰る夜中12時過ぎまで、母は一人で酒の燗を付け、給仕をする

そんな父に反感を抱いていた金田は、学校を卒業したら家を持ち母を招き、愉快に食事をしようと考えていた。しかし母は父のとあるつまらない言い付けがもとで体を壊し、亡くなってしまった

米国勤めになり、米国の夫妻のために食卓の肉を切り分けてやれば、妻はその返しとして夫に茶をつぎ菓子を切る。または米国の女性連がピクニックでサンドウィッチを横かじりしたり、芝居帰りに寄った料理屋で夫や男連には目もくれずシャンパンを飲みおしゃべりをしている様子を見た金田は、最後にこう締めくくったという。「彼らは楽しんでおる遊んでおる幸福である。されば妻なるもの、母なるものの幸福な様を見た事のない私の目には、これさえ非常な慰藉(いしゃ)じゃありませんか。お分かりになりましたろう、私の日本料理、日本酒嫌いの理由(いわれ)はそういう次第です。」と。

 

お正月といえば、家族・親戚・仲間で集まり、おせちやごちそう、酒を囲んで無事に年を越せたことを喜ぶ。それ自体はたしかにめでたい。しかし目を転じれば、正月ともなれば仕事は休みで何もしなくてもよい男達に比べて、正月でも休む事を許されない女達犠牲のうえに成り立った文化である事を、支配者と被支配者の文化である事を、この短い物語は実に鮮やかに描いています。その象徴が日本酒なのです。

 

永井がこの小説を書いたのは100年以上前ですが、100年経ってもこの国は誰かに犠牲を強いる文化である点はあまり変わっていない気がします。

ブログ主の母方の実家での宴会は、男性陣が大酒を飲む一方、女性陣は台所に近い場所でこじんまりとしていて、酒の追加に応じられる様にしていました。また、飲み過ぎた男性が吐しゃした場合も、片づけるのはいつも女性でした。幼心に金田と同じく、なぜ母親達だけがやらなくてはならないのだろうと、嫌悪感を抱いていました。それと同時に、その嫌悪感は日本酒の匂いと結びついていました。

また、社会人になってから、社会においても、所謂「日本式の宴会」というものは、パワハラセクハラ温床になり易い面がある事を、嫌というほど思い知らされました。

 

おめでたい、日本の伝統行事たる正月にミソを付けるな、と思われるかも知れませんが、もう少し窮屈でない日本になるといいなあとブログ主は思いながら、この「一月一日」を読んでいます。

「日本式の宴会」に実は不満のある社会人、家庭人の皆さんには「あなた達の不満はもっともな事だよ。」と、肩をたたいてくれる小説かも知れません。

 

 

 

余談ですが・・・

 

お酒を飲める歳になってしばらくしても嫌悪感のあった日本酒ですが、年を取ったのか(?)味自体はおいしいと思うようになりました。

日本酒が悪いわけじゃないんですよね。

 

 

 

 

 

 

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