ア・ラ・カルト〜季節と気分で選ぶ小説&映画〜

季節と気分に合わせた読書&映画鑑賞の提案

真夏の白昼にジャズのスタンダードナンバー に彩られた瑞々しい小説を。「サマータイム」佐藤多佳子・著

 ぼくの頭の中でふいにピアノの音が踊り出した。右手だけの力強いサマータイム

偕成社「四季のピアニストたち[上]サマータイム佐藤多佳子・著 70頁より)

 

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紹介するのは佐藤多佳子さんの小説「サマータイムです。

 偕成社から単行本、新潮社から文庫本が出版されています。

(ブログ主が所蔵しているのは単行本の方です。)

 

 

 サマータイム佐藤多佳子・著)キーワード

 

 

夏におすすめの小説 プール 夕立 団地  ピアノ 瑞々しい   

ジャズ 姉と弟 10代・青春を描いた小説 初恋

 

あらすじ

 

小学5年生の進は夏休みのある日、プールで1才年上で片腕の少年、広一と出会う。

雷雨を避けて広一の住む団地へ誘われた進は、広一が片腕で弾くジャズのスタンダードナンバー「サマータイム」に魅了される。広一は父の運転する車で事故に遭い、父は亡くなり、広一は片腕を失っていた。広一はジャズピアニストの母と二人で暮らしている。

ある日、体調を崩して入院した広一を見舞うため、進は姉の佳奈と病院を訪れる。

それから佳奈は広一の自転車の特訓に付き合うようになるが、気性の激しい佳奈は転倒した恐怖から思うように乗れない広一と喧嘩別れしてしまう。程なくして広一は引っ越す。

6年の月日が経ち、再び巡ってきた夏に現れた青年は…。

 

 

味わいポイント

 

中学校の図書館で出会った作品です。したがって本作に出会った時は中学生でした。中学卒業後、しばらく忘れていたのですが5年後の大学時代に、地元の図書館で偶然再会。以来、夏の定番になりました。

読む年代ごとに、自分の感想が変わっていくのが面白くて読み返すのかも知れません。

 

中学生の頃は、ひたすら夏の描写にうっとり・共感して読んでいるだけでした。

 

この作品の魅力その①は夏の描写の圧倒的共有性です。

夏のプールに始まる本作。夏のプールは誰の記憶にもあるものでしょう。夕立間近の低く垂れこめた雲やそれに続く雷雨、目が痛くなるほどの白くまぶしい陽射し、外で食べるチョコミントアイス、冷房の効いた部屋で食べる青緑色のゼリー。誰も彼もが容易に思い描く事の出来る夏のモチーフが散りばめてあります。

 

大学生になると、進と佳奈と広一の関係性にフォーカスして読んでいました。

 

この作品の魅力その②は、小学校高学年という思春期の入り口に立つ3人の、荒削りと繊細さが入り混じった感情を味わえる点です。

前述のエネルギッシュな夏のモチーフに彩られている事で、より一層3人の瑞々しさが際立っています。

 

そして今年再読して思ったこの作品の魅力その③は、人生の多角性を描いている点です。

 

この点を考えるには、3人の関係性だけでなく広一とその母友子との母子関係時の経過、「サマータイム」という曲の歌詞にも注目する必要があると思います。

 

 

最後に、本作が気に入ったのなら是非、スピンオフの「九月の雨」も読んでみる事をおすすめします。広一と佳奈が離れていた6年間にあった出来事を描いており、この「九月の雨」の結実が「サマータイム」のラストシーンとも言えるので、より一層多角性を味わえると思います。

(ブログ主所蔵の単行本だと両作品が上下巻で分かれていますが、文庫本だと両作品を収録している様です。)

 

 

是非、真夏の白昼に冷房の効いた部屋で、微かに聞こえるセミの声をBGMに味わってみてはいかがでしょう。読後にサマータイムを聞いてみるのもお忘れなく。

 

余談ですが…
本作に出会ってから、妙に団地というものが気になる様になりました。
整然と並ぶ同じ建物と公園、割と豊かな緑。「団地と夏の白昼」という構図に何故か惹かれます。

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